第二話 物騒マジック

士官学校の寮からこんにちわ。

帝国士官学校第78期生、アーデルハイト・ヴィーラントであります。

ああいや、ライフルの分解清掃をしながらの話になりますが、ご了承を。


さて、前回は行軍演習の真っただ中でしたので、それにちなんで、ここの授業カリキュラムをお教えしましょう。

そもそも、私のような貧乏が故に軍に入るようなのは、士官学校には来れない。

肉壁、あるいは荷物持ちに、戦術や兵站の重要性を説く必要は無いのでね?


ここで、先の魔術的素養が生きてくる。

戦車が未だ存在しないこの世界において、魔導士は陸上の王者となる。野砲でも持ちこまねば、障壁を貫徹できないのだ。

すると、自然と生存しやすい魔導士を中核とした指揮、連絡網が形成される。


故に、魔導士は全員が士官学校行きとなるのだ。ああ、魔導士専用のプログラムも、別に用意されているが。


魔導士には軍以外の道がないかと言われると、意外とそんなことも無いそうだ。

ただ、私は研究機関程度しか知らないが。もう一度行くのは御免被る。



さて、魔術の話だ。

魔術師の割合は、2500人に一人。現在帝国には、2500人弱の魔術師が存在している。この量じゃ1旅団作れるかも怪しいので、一コ小隊に付き数人の配置だ。

魔術検査を義務化しても、なおこの数。かなりの希少さである。

運用方法は、小回りの利く装甲車といった感覚だろうか。


先ほど触れた障壁。20mmくらいまでならなんとか防げるが、それ以上は厳しい。

また、これは通常弾の話なので、魔術弾に関しては別となる。

通常弾でも、弾くためには魔力を消費する。これの完全回復にかかる時間は、3日から1週間。ゆえに、魔術師はローテーションを行う。


帝国魔術師の優れている点として、魔術調整器が挙げられる。

某戦記のように、さぞかしお洒落な時計サイズのものだと思っていたら、届いたのは、ツマミやコードが沢山ついた鉄の箱。

強いて言うならば、オシロスコープに近いだろうか。

高価な精密機器なのでやらなかったが、投げ捨てたくなる。これ、小銃より重い。

兎に角、これが無ければ簡単な魔術行使しかできない訳だが、帝国は調整器の変換効率がいいのだ。


例えば、海を隔てた隣国、連合王国。

魔術と言えばこの国、と呼べるくらい、古くから魔術を扱ってきた国だ。

だが、だからこそ時代遅れ。

我々が調整器を使っているとき、彼らは棒で必死に魔術を制御する。どちらの方が強いかは、火を見るより明らか。



もののついでに、これから起こるであろう大戦について、話そう。

未だ大陸全体を巻き込んだ戦争をしたことの無い、この世界の人類。

ああ、かの砲兵が起こした一連の戦争を、それと呼ぶこともできるかもしれないがね?

技術的にも、情勢的にも、恐らく一次大戦のような様相を呈すだろう。

ここで、魔導士がやることとしたらただ一つ。

戦車の登場まで、魔導士が、突破点となり、浸透の前面に立つ。

未だ、魔導士による電撃戦ドクトリンは、存在していない。

これを、帝国が確立したら?


まあ、つまりは、魔導士は大戦を終結させうる、というわけだ。


……ライヒは、一次大戦におけるドイツ帝国に近い情勢に、置かれている。

かの大戦で、ドイツ帝国の敗北を決定付けたのは、戦車、航空機等の投入。

これらの生産量は、フランスにも負けていた。ライヒもそうだが、列強の中では新興国である事を忘れてはならない。


我々将校に求められるのは、新兵器が投入される前に、ライヒが唯一優れている点である魔導士により、降伏まで持ち込む事。


中世の余韻が残るこの大陸に、新世紀の戦争というものを知らしめなければならないのだ。


ああ、そうは言ってるが、だ。

結局のところ、戦争は政治の失敗というのもまた真理であって。

我々の命運は、この国の上層部に任されているのだ。最近、きな臭いあの上層部に。


生憎、新大陸まで逃げる金は無い。本当に、どうしようもない。


◇◇◇


最近、入ってきた少年の話だ。

ああ、失敬。私は士官学校の教員をやっている者でね。

まだ幼い、少年が入ってきたのだ。

いや、それ自体はそこまで珍しい事では無い。

孤児で、魔導士の適正がある者は、意外と存在する。そういう者の為だけの教育コースがあるくらいには。


皆、年相応の少年であるのだ。

彼らを戦力として、魔導士として前線に送り出すのが私の役目ではあるが、都合の良い盾として扱えれば十分であるのだ。障壁さえ出来ていれば、将校課程は期待されていない。あくまで、ついで程度。


それが、あの少年はどうだ?

歩兵操典を、完全に暗記していた。

さらには、塹壕の優位性。軍上層部の、古い頭が未だ要塞を信じきっており、比較的軽視されている塹壕。その、優位性だ。

士官学校でも一部で話題になっている、次世代の戦術とも言えよう。


さらには、その塹壕の突破。

機関銃を持つ魔導士による、塹壕内の掃討。揺動の砲撃も欠かせずに──と。


まるで、幼さが見えない。文句一つ言わず、行軍訓練を遂行する。軍令を読み込み、規律を重んじる。


敢えて言葉を選ばずに言えば、得体が知れない。と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界でも世界大戦かよ エクセルの部室 @ssrexcel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ