第46話 現状

 悪魔は倒した。

 倒したが、スライムの時のようなこともある。


 今の所異常は出ていないが……


:うおおおおお!

:深層でも勝利!

:さすがしょうちゃん!


 ありがたいことにコメントでも褒めてくれているが、正直どう転ぶのやらといった気持ち。


 俺に状態異常は無効だから、謎の効果があっても俺は無事だ。俺だけにかかればみんなを守れる。

 だが、全員に効いていればボスの対処は厳しくなる。


 何も起こらないでくれ。


「おっ」


 悪魔はようやくアイテムへと姿を変えた。

 息が長かった。硬い手応えは本物だった。深層のモンスターは生身でも丈夫なのだろう。


 周囲を警戒するが援軍が来る様子もない。


 完全に倒し切った。


「仕留めた」


「うわあああ! しょうちゃんが、しょうちゃんがぁ!」


「だ、大丈夫だから、生きてるから」


「まったく、伊井野くんは心配性だね」


「二人は仲良しなんだね」


「わたしにとってしょうちゃんは、しょうちゃんは大切なんです。ただの命の恩人じゃないんですぅ!」


「よ、よしよし」


「しょうちゃーん!」


 こうして盛大に心配してくれると、少し前に俺が勝手に引け目を感じていたことがバカらしく思える。


 それに、俺としては、自分を犠牲にしてもいいと思っていた。

 勝手に、心のどこかで、ダンジョンに死に場所でも探していたのかもしれない。


 そんなつもりはなかったのだが、他人のために動いて死んだってことになれば、誰もきっと自分を責めないだろうって。

 でも、今のえりちゃんを見ていると、そんなことはないんだって思ってしまった。俺が死んだら困る人はいるんだって。


「ここから先、今のやり方は許さないからね」


 怒り泣き、といった顔で見上げてくるえりちゃんに俺はうなずく。


「約束する。もうだいぶスキルも理解できてきた。可能な限り」


「可能な限りじゃなくて」


「いや、気持ちはわかるけど、そこはやっぱりね。ここは深層だし、さっきもたまたま気づけただけで……」


「うーん。まあ、可能な限りでいいよ。そんなすぐには変わらないか」


「あ、あはは」


 約束するって言ったけど、強敵だったことに変わりはないし。

 まあ、負けるとは思わなかったけども、勝ち方がすぐにはわからなかったし。


「そういえば、どこでわかったんだい? 分身の魔力量も、結局そこまで大差があったようには感じなかった」


「うん。あたしとしては、悪魔を刺した時、取ったと思ったんだけど」


「それなら単純ですよ」


 俺は自分のおでこに指を当てた。


「顔の模様が少し違ったんです。特に、ツノ付近の模様が。あと、ツノのねじれ具合とかですかね」


 キョトン、とした表情で三人は顔を見合わせている。


 あれ、みんな気づいてると思ってたんだけど、気づいてなかった?


「千島さん、気づきましたか?」


「ううん。戦闘中にそこまで細かいところ見てない」


「しょうちゃんそこまで見てたの? しかも、わたしから離れてて、そんなに明るくなかったはずなのに?」


「よく見たから、ってところかな……?」


 あとは、スキルによる補正で、多少勘が鋭くなっている部分も関係があるかもしれないけど、そんなもん……?


 まあ、日常的に装飾とかそこまで見ないから気持ちはわかるけども。

 でも、女性の方が気づいてると思ってたんだけどなぁ。


:すげぇ。全然気づけなかった。

:見直して見ると確かに違う。だけど、超高難易度の間違い探しばりに、言われないと気づけねぇ


:全然話変わっちゃうんですけど、なんか他でも似たこと起きてて飯屋さんが当たってるみたいです。多分、みなさんには必要ないでしょうけど


「……ぱ、飯屋さん……」


 他でも似たようなことが。しかも、飯屋さんが対応している。


 えりちゃんにとっては気が気じゃないだろう。心配そうに表情を曇らせた。


「飯屋さんが当たっているなら、他のダンジョンは大丈夫だろう」


「そうね。飯屋さんなら解決してくれるわ。できればこっちにも来て欲しいけど、来ないでしょうね」


「千島さんって意外とミーハーなんですか?」


「違うわよ。その、みんな強いから、優先順位が低いだろうってこと」


「その、不意打ちで褒められると照れるんですよ」


「いや、違っ、違くないけど……」


 千島さんが取り乱していても、えりちゃんはめずらしく、一人自分の世界に入っている。


 今回の出来事は飯屋さんが率先して対応するべきレベルのこと。それでいて場所は深層。心配する気持ちもわかる。


「わっ!」


「ひゃっ! な、何? モンスター?」


「ほら、あれ」


「ん? 何も、って……」


 今度が俺が返す番。

 集中から覚まして、俺の指さす先には、先ほどの悪魔が落とした見たこともないドロップ品の数々。


「あれ、俺たちが持ち帰らないとだと思わない?」


「……そう。うん。そうだね」


 少しずつ顔に色が戻り、いつものえりちゃんが戻ってくる。


「みんなが言ってる通り、飯屋さんに任せれば外は大丈夫だよ」


「色々なところで起こっているなら他の人が来る可能性は低い。でも、ワタシたちなら大丈夫!」


「これは楽観かもしれないけど、今の戦いも大丈夫だった。そう考える他ないだろうからね」


 油断したら死。だが、これは油断じゃない。


「歩みを止めてたら帰れない。ここまできたらみんなで帰ろう」


 やるしかない、できる、と言い聞かせていただけの状態から、少しだけ、できると心から思えているような気がした。


 俺も今のみんななら安心して背中を任せられる。

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