第47話 深層闘技場

 深層のモンスターは知能が高い分、ダンジョンの中でも縄張りがあるのか、ところどころで俺たちに関係なくモンスター同士が戦っているのが感知できる。


 ただ群れているならモンスターの数が減ることはないはずだが、モンスターが集まっては反応が減っているところを見るとおそらく俺の予想は間違っていないと思う。


 おそらくそのおかげと、下の層へ行くほど広くなるというダンジョンの特性のおかげで、思ったよりも戦闘自体は少なくボス部屋を目指せている。


 だが、戦いの少なさのせいで、むしろ嵐の前の静けさのような、妙な胸騒ぎはある。が、無駄な疲労を極力避けられるのはありがたい。


 そうして、可能な限りボス部屋めがけてまっすぐ突っ切るように進んでいると、通路とはまた違う開けた空間に出た。


「広い……?」


「広場かな?」


「そのようだね」


「こんなの他の層だとないわよ?」


 自然発生したダンジョンとは思えないような広場。人工的に作られたような整備されたような環境。


 そこはまるで円形の闘技場のようで、他の層で見るとすれば、一番似ているのがボス部屋のような場所。

 観客席こそないが、あくまで戦うための場所という雰囲気だ。


「しょうちゃん、もしかして深層のボス部屋についたの?」


「いや、ここはボス部屋じゃないよ。ボス部屋まではまだ距離がある」


「それじゃあ、ただの装飾の一部ということかな?」


「今まで通ってきた感じからしても、十分他の層とは違いそうだし、あり得そうな話ね」


 とはいえ、ボス部屋以外の場所がどんなものなのか、俺は正確に把握できてるわけじゃない。

 ここが何なのかということまではわからない。


:建造物的なものって、確かにないですよね

:なんだかコロシアムっぽい

:もしかして、モンスター同士が見せ物でもしてるとか?


 答えは出ないが、似たような考えには同意できる。


 ただ、縄張り争いをこの円形闘技場だけで行っている様子もないし、ただの装飾という線もある。


 それに、見せ物ならばどこで見るのかということになる。怪しい場所は一箇所あるが、


「ここが何なのか、気にはなりますけど、今は先を急ぎましょう」


「そうだね。通り抜けよっか」


「ブモォオオオオオオオ!」


「うぅっ……」


 突然の咆哮。


 鼓膜が破けそうなほどの大きな音の圧。全身がうまく動かせなくなるほどの音に、思わず耳をおおう。


 空間が揺れ、空気が揺れ、パラパラと壁から表面が剥がれ落ちる。


 咆哮が収まってからも、まだ体がビリビリとしびれている。


「何? なんだったの?」


「待つべきだろう。動かない方がいい気がするよ」


「そうね。空気が変わった」


 先輩たちの言う通り、突如として広場を取り囲むようにボッボッボッと炎が吹き出した。


 急激な状況の変化は、まるでボス戦の始まりのような演出。


 俺の知る限りでは、確かにそんな派手な状況変化が起こるらしかった。直で見たことはないが、映像で知る限り似たような状況になっている。


 そして、光に集まる虫のように、炎に気づいたモンスターたちが我先にと迫ってくる。


「モンスターが迫ってます」


「まずいよ。この数」


「ああ。しかもこの炎」


「触れていい、わけないわよね」


「でも、あれは」


 窮地を予感させるほど、次々と迫ってくる深層のモンスターたちだったが、吹き出る炎に触れることで、一瞬にして消し炭にされた。


「……」


 言葉が出なかった。


 深層のモンスターが何の躊躇もなく炎に突っ込むと、それだけで次々と消し炭に変えられていくのだ。


 何が起きているのか理解できない。


 そんな矢先、再びの地響き。

 壁のくぼみの玉座に座る巨体が動き出した。


「あれ、石像とかじゃなかったの?」


「おそらく、あれを倒さないとここは突破できないということなのだろう」


「いやいや、あれって人が倒すとかそういうものじゃないでしょ!」


:でかあああい!

:ボスじゃないのにボス並みってこと?

:おかしいおかしいおかしい!


 このダンジョンの上層のボス、ミノタウロス。そいつによく似た見かけをしているモンスター。違う点があるとすれば、金メッキの趣味の悪い鎧をまとって、同じく趣味の悪い金ピカなオノを軽々と扱っているということ。


 見たところ、ウシ戦士とでもいったところか。こいつはミノタウロスと違い生身じゃない。


 先ほどの咆哮もおそらくはこいつの仕業。


:何だあれ。なんだあれ!


「炎からして脱出は無理だよね」

「そう考えるべきだろうね」

「あれを倒す、ってこと?」


 先ほどまでの勢いはすっかり消えてしまったように、状況の変化のせいか、みんなから諦めムードを感じる。


 確かに先ほどよりも図体がデカく、倒し方がわからないが、倒せないことはないはず。


「逆に考えるべきですよ。この熱さなら、あのウシもすぐにバテる。そう思いませんか?」


 みんなが俺の言葉にハッとさせられた様子。


 そうそう強者のみんなに諦めは似合わない。


「それに、これだけの炎、これだけの明るさなら、えりちゃんも」


「わたしも明かりを準備する必要がない!」


 戦力は万全。

 俺たちの準備も万端。


 相手方もようやっとフィールドに出て、炎が玉座すら飲み込んだ。


 まずは出方をうかがう。


 すると、ウシ戦士はオノを大きく振り上げてきた。

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