第23話 中層へ!

「さて、それじゃあ始めようか」


「わたしは大丈夫ですよ」


「待て待て待て。待ってください!」


「ん。待とう。どうしたんだい?」


「いや、どうしたじゃないですよ」


 俺はなんの前触れもなく中層に連れてこられてしまった。


 上層でなんとかかんとかやっていたレベルだったのに、俺が中層に来るのなんて早すぎるだろう。

 そもそも、中層にやってくる高校生の探索者なんてそうそういない。


 目の前の二人が特異なだけだ。


「何を普通に中層で始めようとしてるんですか? 上層にしましょう? そして、えりちゃんはどうしてそれを止めないの?」


「必要ないから」


「ああ。そうだとも。いやなに、高梨くんの力は配信で見させてもらった」


「み、見たんですか?」


「もちろん。とても参考になった。そこからわかる限りにはなるが、君は中層攻略に挑むとしても何も問題はない」


「そうそう! そうです! しょうちゃんはあのキラー・アイアンを一人で倒したんだから、中層でも問題ないって」


「う、うーん……」


 もしかして、俺、強い? とか思い上がった思考は避けるようにしているのだが、それを卑下と言われてしまったのを思い出す。

 二人の言葉から考えると、俺は自分の力を見誤っているのか?


 わからない。


 ひとまず、ここは二人の先輩の言葉を信じて、中層に挑むことにしてみるか。

 ダメならダメで、一人で挑む前に実力がわかるわけだし。


「わかりました。中層にしましょう」


「ふふ。そう言ってくれると思っていたよ。まあ、上層では君の力を存分に確かめることはできないだろうからね。これで一安心だ」


「そうですか?」


「そうだとも。ワタシは君なら下層へもいけるだろうと踏んでいる」


「わたしも異論はないかな」


「なるほど……」


 これは、イレギュラーでもなければ、下層でもやっていけるような二人の感覚は、一般人とは違うってことも考慮しないといけない気がする。そういうこと。そういう話だ。基本一人でも行けるような二人は違う。

 まあ、それを差し引いても、中層で油断しなければいけるかどうか、ということを確かめるのが今回の俺のミッションということにしよう。


「そういえば、関先輩も配信してるんですね」


「もちろんだとも。配信として研究成果を残すようにしている。人のものも見て勉強しているし、自分のものを振り返って学びにしている。便利な道具だと思うよ」


「えりちゃんの言ってた通りだ」


「そうなのかい?」


「え、ええ。そうですねー」


 なんだか反応が変な気がするが、俺が配信することを納得させるためだけの言い訳じゃなかったようだ。

 一人でいても、周りに見られている緊張感を常に出し、モンスターに遅れを取らないために必要な儀式のようなもの。

 一流はやはり、余裕がないとか言い訳しないんだな。かっこいい。


「それじゃあ、始めようか」


「しょうちゃんがまだ配信を始めたばかりなので、しょうちゃんのところからでもいいですか?」


「ワタシは後から見られるならどこだろうと構わない」


「ありがとうございます」


 何やら許可取りすると、えりちゃんは今回も手際よく準備して配信を始めてくれた。


「それじゃあどうぞ!」


「え、あ。ど、どうも、しょうちゃんですー」


:しょうちゃーん!

:配信ありがとー!


「ほう。しょうちゃんとはそういうことか」


:あれ、この声……

:誰かいるんですか?


「先輩、始まってるんですから静かにしてください」


「ああ、すまない。そういえば君たちは何やら挨拶していたな。どうも諸君。ワタシは関唯だ。しょうちゃんになぞらえるなら、ゆいちゃんとでも呼ぶといい」


「あ、それお揃いみたいでずるいです!」


:え、今回もいいのんと?

:いや待て。関唯ってあの関唯?

:どんな人脈してんだよ!


「あ、あ、えーと。そうです。関先輩ともです」


「もー! ゆいちゃんって呼びますからね!」


「構わない。そもそも名など、ワタシにとっては識別できるものならどんなものでもいい」


「ふーん? あ、どうも! いいのんです! みなさんこんにちは! 今回は関先輩ことゆいちゃんと一緒に、しょうちゃんの中層攻略に挑戦しようと思いますので、応援よろしくお願いします!」


:おおー!

:関唯、本物マジか!

:もう中層!? 相変わらずすげぇスピードだな


 今回も、目で追えないほどのスピードでコメントが流れていく。


 まだ、配信の環境には慣れない。

 一回やってるから大丈夫かと思ったが、前回は心の準備が多少できてたからなんとかなってたみたいだ。


 深呼吸大事。


「お、いたね。モンスター」


「あれは、スライム?」


 落ち着こうとしていたところに早速エンカウント。

 でも、ただのスライムじゃない。毒々しい色の毒っぽいスライム。

 あれは、体当たりをくらっただけでも死ぬと警戒するように聞いているスライム。

 床をすべるように俺たちの方へ近づいてくる。


:何あれ。俺、中層とか言ったことないんだけど、あんなんいるの?

:ポイズンスライムじゃねぇか!

:ポイズンスライム? スライムはスライムだろ?

:触れたら骨まで溶かされるスライムだよ

:ヤベーヤツじゃん!


「急だな。ここはワタシの魔法で」


「待ってください。威力が出過ぎますって」


「言っている場合か? おっと」


 全員回避。

 しかし、飛ばされてきた水の玉のようなものがダンジョンの床に落ちると、ジュウジュウと音を立てて床を溶かした。


「ヒェー」


 なんだか顔もスライムよりも怖い顔をしているように見える。


「いいとこ見せようったってそうはいきませんからね」


「それは君の方じゃないのかい?」


「危ない!」


 何やらまたいがみ合いだした二人の前に入り。毒の玉を切って四散させる。

 そして、そのまま本体のスライムも切り伏せる。

 俺に毒耐性があってよかった……他の状態異常も基本的なものは耐性があるし、うん、麻痺にもなっていない。


「二人とも無事ですか?」


「ああ。ワタシは」


「わたしも」


「二人ならそうだよね。なんとか弾けたけど、きっと今も俺の出る幕はなかったかな」


「「いやいや……」」


「ん?」


「どう見てもくらっていただろう」


「そうそう。それ……」


「それ?」

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