第24話 モンスター大量発生!

 それってなんだろう。確かめないとかな?


 二人はどう見ても無事そうで、よかったと思うんだけど、なんだか落ち着かない様子。

 俺より慣れているはずの二人がどうして……?


「しょうちゃん、大丈夫それ?」


「別に大丈夫だけど」


「いや、その装備……」


「え、装備……?」


 俺はそこで初めて自分の体を見下ろした。

 耐性にあぐらをかいて戦ったせいで、毒によって溶かされた装備は見るも無惨な状態に変わり果てていた。


「ど、どうしていつも俺ばっかり!?」


「まあ、しょうちゃんのダメージファッションはいいと思うけどね」


「ファッションじゃないから! 誰が攻撃受けてファッションだって主張するよ!」


 俺が無事でも装備まで無事じゃないのか……。

 まあ幸いダメージは少しだし、別に今回の探索をやり切るくらいなら問題ないだろう。

 装備は最初に揃えたものだからな……中層用じゃない。仕方ない。


:くっ、見えない

:もっと頑張れよポイズンスライム!


「なんか趣旨変わってきてません?」


「泣き顔もかわいいよ」


「な、泣いてない!」


「楽しそうで何よりだ。そんなことよりあれを見てみるんだ」


「楽しんでないです。それに、そんなことですか……」


 コメントでは俺の心配をするものはすぐに流れてしまったし、関先輩は無事とわかるや興味を失っていたし……。


 仕方なく、関先輩がずっと見つめていた先に目をやる。

 それはポイズンスライムがいた辺り。

 今はアイテムの山に変わっている場所だった。


「モンスターを一体倒しただけで、ここまでアイテムを得られることはそうない。ついているな」


「そうですよね。キラー・アイアンの時も、ものすごいドロップでしたし」


「これってすごいんだ。ずっとラッキーが続いてるんだよね」


:あれはすごかったなー。宝の山だったし。

:いや、服が溶かされるよりすごいことになってる!?

:え、これ、何体倒したらこんなにドロップするんですかねぇ


 コメントからしても、やたら持ち上げてくれているわけではないみたいだ。


「スキルにもドロップアイテムが増えるものもあるそうだが、どうなのだろうな」


「どうでしょう?」


「ふっ。そう簡単に手の内は明かさないか。まあいいさ。まだ初心者ならばここは倒したしょうちゃんに譲ろう」


「そうですね。手持ちも少ないですから」


「えりちゃんからは昨日ももらっちゃったけど」


「いいのいいの! こうして新人を育てていくんだから」


 そういうことならありがたく回収させてもらおう。そして、必要になったら使おう。

 いやー。俺は探索者の先輩に恵まれてるな。


「しょうちゃん」


「なんだか関先輩にしょうちゃんって言われるの変な気分です」


「いや、残念だがゆっくり回収している暇はなさそうだ」


「え?」


 せっせと収納スキルでアイテムを拾い上げていると、目の前の地面が突然盛り上がった。すると、大量に何かが湧き上がってきた。

 ガイコツやらゾンビやらのホラー映画にでも出てきそうなモンスターたちを筆頭に、死者の復活とでも言いたげな現象。


「弱いのが多いけど、これは……」


「大量発生のイレギュラーだろうな。まさしく、力試しにはもってこいじゃないか」


「いやいやいや! さっきちょっと苦戦したばかりですよ?」


 すでに後方も取り囲まれ、逃げ場はない。


:まーたイレギュラー!?

:今度は大量発生って、そこのダンジョンイレギュラー多すぎだろ!

:む、無理せず転移を


「前回の基礎魔法で蹴散らしてほしいところだが、いかんせん数が多い。スキルを観察するには邪魔すぎるな」


「わたしも同感です。まずはわたしたちがやっちゃいましょう」


「無論。そのつもりだ」


「しょうちゃんが見ててね」


「う、うん」


 俺は二人の背中に挟まれて待機。

 どうやら転移で逃げるという思考はないみたいだ。


 早速何かをするのかと思ったが、関先輩はぶつぶつと何かをつぶやき出した。

 これって、これがえりちゃんの言っていた魔法の詠唱……? ほ、本物だ!


「さあ、我が地獄の業火に包まれて、塵と化すがいい! 火炎極大魔法『インフェルノ・ノヴァ』!」


「わ、わたしも何か、かっこいいの。ああー! 思いつかないー!」


 左右にほぼ同時に放たれた漆黒の炎と落雷。


 熱気とすさまじい雷鳴が肌を鼓膜を刺激し、振動がダンジョン内を激しく揺らした。


 近くで天変地異にも似た現象が起き、俺は内心パニックにおちいる。

 いや、誰だってここにいたらそうなるから!


 両者とも地面を、壁を焦がし、ほとんどのモンスターを蹴散らした。


「やった?」


「ヴァー!」

「ひゃー!」


 やってなかった!

 目の前に現れた人型の何かを殴りつけ、俺は目に入るモンスターを殴りつけた。


 ひとまず見えるところからはいなくなった。


「よ、よかった。弱っててよかった」


 いきなり出てくるのは反則だよ。危なかった。


「当たっていなかったから倒し損ねたと思うのだがね」


「それに、一撃って……」


「いやいや、二人の方がすごかったじゃない」


:殴って一撃なんてどんな脳筋スキルなんだ

:剣いらなくね?

:ははは……かわいた笑いしか出ないわ……


 俺の方が戦々恐々とする場面だと思うのに、先輩二人が神妙な面持ち。

 コメントまで冗談がキツい。


 俺の力だったとすれば、火事場の馬鹿力ってところだと思う。人は窮地ですごい力を発揮するのだ、多分。


「まったく、本当に実力の底がしれないな」


「わたしも、もう少しできると思ってたんですけどね。さすがにあそこまで色々同時にこなすのはちょっと」


「待って、誰かいる。反応がある」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る