第22話 俺の取り合い!?

 気づくと俺は空を見ていた。


 と言うより、俺の姿勢がおかしい。

 視界に入ってくるのは、


「大丈夫? しょうちゃん」

「えりちゃん!?」


 俺を抱きかかえるようにして、器用に関先輩の拘束から脱出させてくれたらしい。


 別に、脅されていたわけではないのだが、なんとなく助かった?

 いや、今は別の意味で心臓がうるさい。めちゃくちゃ密着してるから……。


「なんの真似かな? 伊井野くん」


「関先輩。しょうちゃんはわたしのパートナーです。しょうちゃんのことを知りたいって言うなら、せめてわたしに話を通すべきです。ね、しょうちゃん」


「いつから?」


「昨日からだよ」


 そんな話をした記憶は一切ないのだが……。


 確かに、色々と教えてもらったし、色々と助けてもらったが、パートナーって話は出てない、よな?

 探索者に関して、パートナー制度みたいなのってあったっけ?


「本人に自覚がないうちからパートナーというのは、あまりにも思い上がった発言じゃないかな? 高梨くんはワタシの助手だよ? そうだろう? 高梨くん」


「それもいつからですか?」


「先ほどからだとも」


 さっきの話は俺が助手になるという前提で進められていたのか?

 それならそうと言っておいてほしかったのだが。


「先輩こそ妄想を現実とごっちゃごちゃにしてるじゃないですか」


「君に言われたくないな」


「負け惜しみですね。さっき先輩はしょうちゃんを怯えさせていました。でも、わたしがこうしてくっついていても、しょうちゃんが抵抗しないことから、わたしとしょうちゃんの方が信頼関係があることは明白でしょう?」


「先ほどの我々の様子を見ていなかったのかな? 高梨くんなら脱出できたものをあえて動かなかったんだ」


 理由がイマイチわからないのだが、二人してにらみ合っている。

 誰かが来ると恥ずかしいから、俺としてはそろそろ下ろしてほしいのだが、一流探索者の喧嘩に首をつっこむ勇気はまだない。


「い、いいのんでもこれだけは言わせてもらうっす! アネゴはオイラのアネゴっすから!」


「いや、だからいつから!?」


 さすがにタイコウが誰かわからないのか、ぽかんとした顔でえりちゃんは完全に虚をつかれたらしい。

 必死に記憶を探っているのが俺でもわかる。


「あれは坂本タイコウだよ」


「え、あれが!? 坂本タイコウって坂本先輩でしょ? 女の子だったっけ? 違うよね?」


「ふふーん!」


 なぜか見た目に自信を持っているタイコウに混乱しているえりちゃん。

 気持ちはわかる。

 俺も名前を知った時から、坂本タイコウという人物のイメージがガラガラと崩壊してしまっている。


「い、いや、坂本先輩だとしても、しょうちゃんはわたしと探索に行くんだから。先輩二人にも譲りませんから! しょうちゃんはまだまだ隙だらけでかわいいんです!」


「それっていいの?」


「いいや、高梨くんはなんとも不思議で興味深い存在だろう」


「興味深い?」


「わたしを助けてくれたんだから、わたしが恩を返す方が自然ですよね」


「まだ探索者として発展途上。先輩としてもあまり危険を犯させたくないな」


「先輩という意味なら関先輩よりわたしの方が探索者歴は長いです」


「歳はワタシの方が上だ。それを言うなら、守られていた君は高梨くんにとって足手まといなんじゃないか?」


「いいのんは足手まといなんかじゃない。それに、アネゴが初日でボスを一撃で倒したのは、アネゴがヤバいだけだろ?」


「坂本くんは黙っててくれないかな?」


「坂本先輩は黙っててください」


「あ、アネゴぉ」


「タイコウ。ありがとう。ちょっと静かにしてた方がいいかも」


 涙目でしょんぼりし出したタイコウを言葉で落ち着かせる。


 もう二人はタイコウに目もくれない。


 こんな状況では、俺も正気を保つのがやっとだ。

 未だ理由はわからないが、どうやら俺をめぐって言い争いをしているという雰囲気は感じ取れた。

 しかし、そんな状況に精神がついていかない。


「しょうちゃん」

「高梨くん」


「どうするの?」

「どうするんだい?」


「え? えっと……」


 正直恥ずかしい。


 今まで誰かに相手にされることなんてほとんどなかった人生だから、俺のことを見て、しかも憧れていた探索者が探索者として俺を評価しているというのは、今さらになってすごいことなのだと理解できる。

 どちらか選ぶというのはとても難しい。

 俺の知る限りでは、両者ともに大技を扱う探索者という認識だ。

 ならば、お互いに得になる情報を持っていそうな気がする。


「一緒じゃダメですかね?」


「え?」

「どういうことかな?」


「二人とも一緒なら心強いと思います。それに、不意の出来事の対策をするなら、本来一人でダンジョンに挑むことは推奨されていない。このことからも、二人にはあんまりいがみあってほしくないです」


 キョトンとした表情の二人。

 なんだろう。俺は間違ったことを言っただろうか。


「ふふ」

「はは」


「ふふふふふ」

「はっはっはっは」


 少しの沈黙の後、二人は突然笑い出した。


 いや、怖い。どうして笑ってるの二人は!


「しょうちゃんに探索者の基本を思い出させられるなんて」


「そうだな。実験に没頭しすぎていて、危ない状況には何度もおちいっていた。一人では対処できないこともある。うん。伊井野くん力を貸してほしい」


「もちろんですよ。先輩」


 よかった。喧嘩が激しくならずに済んだみたいだ。

 ようやく俺も地面に下ろしてもらったし。


「それで、坂本くんも来るのかな?」


「あ? オイラは無理だよ。今の状態でアネゴに迷惑かけるわけにはいかないだろ。色々と準備不足だ」


「だろうね」


「つーわけで、すんませんっす、アネゴ」


「大丈夫だよ」

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