第10話 うわさされてる?

「ついたー!」


 初撃無効みたいなスキルがあったので発動させておいた。

 他にも色々ありそうだったが、とりあえずこれだけは発動させた。

 そのおかげか、あれ以上誰かに絡まれることもなく家までたどり着くことができた。

 玄関先に倒れ込んで寝そうなほどだがなんとか持ちこたえる。

 精神の疲れで体が重い。が、必死に体をひきづって、ソファで倒れ込む。


「ああー!」


 ソファでも十分に柔らかい。

 このまま眠りについてしまいそうだが、めくれ上がったスカートをなんとなく叩いて戻す。もう考えたくない。

 まだまだやっておくべきことはあるが、正直色々ありすぎて限界だ。

 疲労への耐性もつくといいが、今日はもう疲れすぎた。





「はっ!」


 顔に光が当たったのを感じ、顔を起こすと外が明るい。

 結局ソファで寝てしまったようだ。


「んんー!」


 変な姿勢で寝てしまって身体中が、意外と痛くないな。

 これも共通スキルのおかげか。


 まあ、その代わり寝て起きても、見た目も服装も変わっていない。

 このままでは、ダンジョン受付のバイトか何かだと思われそうだ。


「顔洗お」


 寝起きの女子が現れた。

 いや、俺だ。


 やっぱり美少女だ。ほっぺた引っ張ってみても美少女だわ。

 なんかニヤニヤしちゃうけど、俺だ……。笑うと余計かわいい。


 だが、俺だ。


「……キャハッ! うぉおえぇぇぇ!」


 ダメだ。


 見た目も声もかわいいのに、自分がやってるとなんかもう精神的に色々とダメージがでかい。


 きっと、俺以外のかわいい子がやっているからいいんだろう。勉強になった。


「ふざけてないで準備しよ……」


 背が小さくなっただけで、何かと不便なのは生活でも同じだった。

 届いていたはずのところに微妙に手が届かなかったり、若干距離感がずれて手が届かなかったり、見え方が違っていてやっぱり手が届かなかったりで、慣れるのが大変そうだ。


 あと、服が未だ借り物なのでなんかシワにしてしまったことが気になる。

 それに、女性からすればかわいい制服なのかもしれないが、俺からすれば落ち着かない服装でとにかく大変だ!


「あ、女子の制服も持ってないな……」


 当たり前だ!


 まあ、制服は制服だし今まで通り着ていこう。俺はそもそもが男だしな。うんうん。

 さすがにそれ以外の服で行くわけにもいかないし。

 今回もベルトでウエストを誤魔化すが、袖やら裾やらはまくって誤魔化す。さすがに、制服を引きちぎるわけにはいかない……。

「さて、出るか!」




 なんだか見られてるな……。


 人通りがある場所に行くだけでこれって、女子って大変だな、本当に。

 男だった時は、こんなに気にならなかった視線が、気になるとは。


 いや、服装的に引いている人が大多数なのだろう……今の格好は目立つよな。


 さっさと行こう。




「……お、おはよう」


「お、おはよう」


 教室に入っても、なんか遠巻きに見られている気がする。

 キャラでもないのに、入るのに気が引けて近くの人にあいさつしちゃったけど、どうしよう。


 気まずい。


「はあ……」


 探索者って、いいことばかりでもないんだな。

 それは俺とか骨折の人くらいか。


 あ、そういえばアイテムどうしよう。

 って、今はそんなことより今日の授業どうしようだよな……。


「おは、よう……」


「おはよう。桃山くん」


「えっと……そこ、高梨くんの席だよ? それにきみ女子だよね? 制服違うし、サイズ合ってないし……」


「ここが俺の席だってことは知ってるよ」


「え?」


「制服は……ない」


「え、でも……あれ、その顔、どこかで……」


 なんかじっと顔をのぞき込もうとしてくるが、正直あんまし見られたくない。


 背格好だけで女子だってバレてる。いや、声のせいもあるか。何にしても、今の格好は目立つ。


 なんと説明したらいいのかもわからないし、でも、嘘はついてないし……。

 なんかピンときたみたいな反応されてるんだけど、俺、指名手配犯にでもなったのか?


「みんな、おっはよー!」


「おお! いいのん! 大丈夫だった?」


「もっちろん」


「昨日は大変だったな」


「まあ、ダンジョンに行ってたらあれくらいあるよ……あれ、高梨くん様子変じゃない?」


「あ、ああ。そうみたい」


「ふーん? 高梨くん、具合悪いの?」


 とてもまあ、周りが見えていることだ。

 伊井野さんはやってくるなり、教室の雰囲気を察知したらしい。

 今は声も高いのだ。低く低く。

 伊井野さんは接触しているから、余計に顔を見せないように窓際を向きながら……。


「あ、ああ。少しね」


「……!」


 どんな反応してるのか見えないけど、どうでしょう。


「ちょっといいかな」


 人をかき分け、なぜか伊井野さんは俺へと近づいてくる。

 なぜか、なぜか。


「ねえ、高梨くん。お顔、見せてくれない?」


「いや、俺の顔なんて見ても仕方ないよ」


「えー。見たいなわたし、高梨くんのかわいいお顔」


「え、なんで知って……。あ」


「ふふっ。やっぱり」


「ハッタリか!」


「まあねー」


 ニヤリと笑う伊井野さんはなんだかとても楽しそうだ。

 そして、俺の顔を見たクラスメイトたちが途端にざわざわし出した。


「あれ、そうだよね?」

「やっぱり高梨くんが!?」


「来て」


「ちょっと?」


 敵意なく手を引かれ、俺は簡単に伊井野さんに教室を連れ出されてしまった。


「い、伊井野!? 隣は……。いや、今からはじま」


「先生、クラスメイトが大変なので早退します。こっちは高梨くんです」


「お、おお……。たかなし……」


「ちょ、ちょっと伊井野さん?」


「いいからいいから」


 簡単に事情を説明すると伊井野さんは先生の反応を見るでもなく、そそくさと通り過ぎた。

 正直、観察してわかる程度のことしか知らなかったけど、意外と強引なのか?


「たかなし? 高梨!?」


 ドサドサッと持っていた資料を落とす音が聞こえてくるが、伊井野さんは気にすることも止まることもなく歩き続けた。

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