第11話 伊井野宅へ!
僕としては、ダンジョンに入った瞬間からTSスキルをどうにかしたい!
と思ってたけど、なった時より今の方が思ってるなぁ。
「ここって……」
「ささ、入って入って!」
「いや」
「いいからいいから!」
結局、強引に連れられるまま、俺は伊井野さんの家に連れ込まれてしまった。
お嬢様と言っても差し支えないような立派な家が俺を待ち受け、そして、中には立派な内装が広がっていた。
「こっちこっち!」
俺があっけに取られるなかで、伊井野さんに慣れた様子で手を引かれ、俺は一つの部屋へと入った。
「ようこそ。わたしの部屋に」
「伊井野さんの部屋?」
やっと何が起きているのかわかってきて、少しずつ情報が整理できる。
人生初女子の家、女子の部屋。
思わず体に力が入る。
「はは。そんなに硬くならなくていいって」
「いや、だって、伊井野さんの部屋だよ?」
「友だちの部屋なんてそんなに珍しものでもないでしょ?」
「伊井野さんだよ?」
あんまり人が来ることに頓着がないのか、俺を部屋に入れたことを気にした様子はなさそうだ。
「高梨くんの方が緊急事態だしさ」
「お気遣いどうも」
「だから緊張しなくていいって。別にほら、危ないものとかないでしょ?」
伊井野さんに促され部屋を見回す。
雰囲気としてはなんだかかわいらしい。ぬいぐるみが少し多いくらいで特別変わったものは置いてなさそうだ。
それといい匂いがする。
「確かに、部屋をじっくり見られると恥ずかしいかな」
「ご、ごめん」
「ううん。気にしないで」
「うん……」
せっかく探索者素人の俺を気遣って家にまで連れてきてくれたのに、何を話せばいいのかわからない。
さっきまで伊井野さんについていく形で、ただ流されているだけだったから、ここからどうすればいいのかわからない。
「高梨くんだったんだね。わたしを助けてくれたの」
「助けたなんてそんな。たまたま俺の攻撃が最後の一撃だっただけだよ」
「謙遜しちゃって。ほとんど攻撃されてないボスを一撃なんて、初日の探索者がやることじゃないよ?」
「え?」
「まあ、あれだけ実力もある探索者に囲まれて簡単にあの状況を脱出できたことを思えば納得だけどね。すごいなー」
「え?」
なんだか過大評価すぎる気がするけど、どうやって勘違いを解こう。
人混みを出られたのも服装が似ていた受付のお姉さんがいただけだし。
「俺のユニークスキルは女の子になるだけだよ? それに、ボスを倒すのだって、俺がいなくても伊井野さんだけでなんとかなったんじゃない?」
「ううん。さすがにあの混乱はわたしだけじゃ無理だったよ。その辺の勘所はまだまだっぽいね」
「そうなの?」
「そうだよ! スキルってものはね。精神状態や体の状態にも左右されるんだよ。だから、生身で一撃受けたあの状況。わたし一人だったら最後の最後でダメだったんじゃないかな……」
伊井野さんの顔は俺を立てるために嘘をついているようには見えなかった。
どこか遠く、本当に死を悟ったことのある人間のような顔をしていた。
「そもそも、あの場では実力者が集まっててあれだったんだから、わたしを含め犠牲者ゼロは奇跡だよ」
「そうだったの?」
「気づいてなかったの? まあ、仕方ないか。実力があるからって有名なわけでもないし、とにかく。高梨くんのおかげだからね! ありがとう」
「う、うん」
手を取って感謝されてもやっぱり実感が湧かない。
じゃあ、どうして俺なんかがトドメを刺せたのか、どうして他の人は逃げるしかなかったのか、疑問は絶えない。
「伊井野さんでも危険な時ってあるんだね」
「それはそうだよ。わたしの力だって限度があるからね」
伊井野さんのスキルと言えば、俺のイメージでは万能そのものだ。
超人的な身体能力、ダンジョン内にも関わらず、大量の落雷を直撃させる、果ては自由自在な瞬間移動など、できないことなどないんじゃないかと思わされる技のレパートリー。
シンプルな身体能力で解決する飯屋さんとは大違いだ。
「ここだけの話。わたしは一度に一つならなんでもできるんだ。ただ、攻撃だと、威力を抑えるのが苦手で人を巻き込んじゃうんだよね。ゆっくり調整すれば……」
伊井野さんは手のひらサイズの冷凍庫とかで作れるような氷を作り出し、ヒョイっと俺の首元に、
「冷たっ! え、なんで背中に入れた?」
「これだけの威力ってこと」
「えぇ……?」
「あとはこうして……」
精密な動きで部屋に氷を出現させると、それは何やら人の形のようになり……。
あれ、最近見たような顔つき。
「俺!?」
「そう! 氷の彫像も作れるってわけ」
「本当になんでもできるんだね」
「だけど、一度に一つね。氷を出しながら、炎を出したりはできない。それじゃ、本題に入ろっか」
「今まで本題じゃなかったんだ」
パンッと手を叩くと、氷の彫像はどこかへ消えてしまった。
「高梨くんさ。しょうちゃんって呼んでいい? 正一郎だからしょうちゃん」
「え、いや、まあ。別にいいけど」
小っ恥ずかしい。
ただ、否定するほどでもない。
「やった! それじゃあ、わたしのことはえりちゃんって呼んで。みんな伊井野さんかいいのんって呼ぶからさ。名前で呼ばれることってないんだ」
「それはちょっと……」
「しょうちゃんに呼んでほしいな」
「お、俺が呼んだら、急で馴れ馴れしすぎるっていうか……」
「ダメ?」
さみしそうな顔をされ胸が痛む。
俺みたいな急ごしらえの美少女ではなく、本物の美少女による泣き落としは効果絶大だ。
「わ、わかった」
「やった! 呼んでみて呼んでみて!」
「え、えりちゃん……」
「んふふ」
「そんなにいい?」
「いいの!」
やけに嬉しそうに笑ってくれる。
名前を呼んだくらいでと思うが、本人がいいならいいか。
「そうだ。濡れちゃったでしょ? お着替えしようか」
「それはいい。そもそもえりちゃんのせい、うぉわ!」
下着も含めていきなり服が全て消えた。
パサッと少し離れたところに落下する。
一度に一つならなんでもできるのか……。
「い、いきなり何してんの?」
「すっかり女の子だね」
「いや、え?」
思わず体を隠す俺を眺めながら楽しそうに笑っている。
これは、いたずら好きとかそういうレベルじゃないと思うんだが。
「あ、そっか。わたしも脱がないとフェアじゃないよね」
「いや、何言ってんの? いや、なんで脱いでんの? ちょっと待って、黙って近づかないで? 待って? ねえ待って、待って!」
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