第9話 夜道にチンピラ!

「出られてよかった……。さっさと帰ろう」


 ギルドの外に出てからも、俺を引き入れようとする騒ぎ声が聞こえてくる。

 宇野さんには申し訳ないが、次来た時にでも謝ろう。


 外はもうすっかり日も落ちて暗くなってしまった。

 室内にいた、いや、勢いに流されていたから、あまり気にすることができなかったが、人生初ワンピースだ。

 スカートがなんとも心許ない。女性はこんな頼りない服装で不安にならないのだろうか。意識し始めたらスースーする気がする。


「はあ……どうしよ」


 別に布が伸びるわけでもないのに、スカートの裾を引っ張ってしまう。


 それに、せっかく探索者になれたのに、現状がこんなでは先が思いやられる。

 今日はなんとかなったが……まあ、今日なんとかなったってことは、共通スキルが弱いわけじゃないのだろう。


 そもそも、常時骨折していても、ダンジョンの管理ができるほどだし、女の子の体になることなんて、実は些細なものなのかもしれない。


 でも、慣れない。

 サイズが合う服これしかないんだよなぁ。


「よお。姉ちゃーん。今一人? それならこれからオイラと遊ばないか?」


「え……」


 接近に気づけなかった。


 突如吹き出すものすごい突風。まるで風に乗ってきたようにいきなり現れた。

 いや、意識が完全に現実から離れていた。肩を組まれるまで気づけないなんて……。


「どうなんだよ」


 誰だこいつ。デカい。知り合いじゃない。一般人か? わからないが、なんだか引っかかるような……。

 しかし、一般人相手なら全力は出せない。


「なあなあ、無視はひどくないか?」


「じゃあ、やめてください」


 スキルを発動させないように注意しながら、軽く押して抵抗する。

 相手が一般人なら、共通スキルを使って引きはがすことは簡単だろう。だが、慣れないスキルを使い、力の調整にミスって生身の人間を殺してしまえば即逮捕。

 元探索者なら終身刑ならまだいい方じゃなかったか? その辺は講習でも受けてから探索者になったのだしな。

 どうしよう。


「ははっ。その服かわいいなぁ。アニメみたいだなぁ。どこかで見たような」


「いやいや、気のせいでしょう」


「そうか?」


 こいつ、力強いな。男女の差か? それにしても強いだろ。

 これは素の力だけじゃ敵わないな。


「まさか、オイラと一緒じゃつまらないって思ってるか? オイラだって何も披露できるものがないのに誘ってるんじゃないんだぜ?」


「勧誘なら間に合ってますから」


「話だけでも聞いてくれよ」


 少しずつ身体能力を強化しながら力を入れているが、この男、びくともしない。


「オイラはまあ、歳の割には活躍してるっていっつも言われるんだよ」


「聞いてない」


「まあ、聞いてくれって。それで、一応肉体派なら男女込みで一番だって自負がある。世界だって夢じゃないんじゃないかってな」


 なんかそんなインタビューに答えているヤツがいたような……。


「お、聞く気になったか? 身体強化じゃ俺が誰よりもトップ。少しは見たこともあるだろう?」


「知りません」


「ええ!? うっそ……オイラのこと、タメじゃ知らないヤツいないんだけど?」


 いや、どうせパクって話してるだけだ。知ってるなんて言ったら調子に乗りそうだし。


 ショックを受けたのは、これはプラスか、マイナスか。

 だが、今の話、誰だかまではわからないが、探索者みたいだ。

 共通スキルを軽く使ってもダメなら、この判断は間違いじゃない。


「探索者なら手加減はいらないな?」


「お? 男相手に手加減するようなスキルなのか? グッ、つ、強い……」


「少し動いた!」


「その服、やっぱり受付のはずだろ? まさか、探索者の方なのか?」


「……ステータス」


「無視するなって」


 余裕が出てきた。

 集中しろ。相手は強敵、生半可な対処じゃおそらく今の俺で状況打破は難しい。

 探せ、対人にも使える俺のスキルを……!


「くっ。なるほどな。こりゃ、人の誘いを断ろうとするわけだわ」


「勧誘は間に合ってるって言ったろう?」


「女子高生の探索者はどうしてこうも我が強いんだろうな」


「さあな」


 身体能力強化だけでも、基礎から応用まで、そして、上中下まで揃っている。共通での最高は上。

 あとは、さっきも使った注意で、少しだけ相手の目線をそらす。今は、それだけできれば十分。


 準備は整った。


「うおっ。バランスが。何した?」


 いける。


「なっ、オイラの手から抜けた?」


「ふっ。わかったか? 力だけじゃないって」


「だが、力も重要だぜ?」


「知ってる!」


 相手が何かするより速く動け。


 突き!


「うぐぅ」


 決め手としての一発。

 男は、腹を押さえてその場にへたり込んだ。


 思ったよりは効果があったな。


 一応、スイカが弾け飛ぶイメージで放ったのだが、体が形を保っているってことは、やっぱり相当な強者。

 早々に気づけてよかった……って。


「う、うぅ。うぅっぅぅ……」


 なんだか、目の前の男の体が、空気が抜けるように小さくなっている。

 声もさっきより高くなっているような。


「な、なんだこれ。って、なんだこれぇ女になってる!?」


 女になった!?


「お、覚えてろ!」


「あ、はっや!」


 何か言ったかと思ったらもうすでに姿が見えない。

 それに、何か気になる現象が起きていたように思えるが、動きが速すぎて目で追えなかった。

 あれで出会い頭に殴られてたらさすがにまずかったか、常時発動の防御系スキルでもあればいいな。


「探しておくか」


 ひとまず、助かった。


 女子どもは夜道に気をつけろってほんとだな。

 さっさと気をつけて帰ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る