第8話 俺がひっぱりだこ!?

 びっくりしたけど話は聞こう。


 まあ、ちょっと落ち着くのを待たないといけないだろうけどね。


 受付のお姉さんは、口をあんぐりと大きく開けて、俺と水晶を見比べている。

 これは、俺のユニークスキルを見て驚いているのか、他の共通スキルを見て驚いているのか、どっちだろう。


 俺の位置からだと、今、何を見ているのかがよく見えない。


「どうでした?」


「高梨さんのユニークスキルは【TS】と出ています。高梨さんのお話からして、性別が変わるスキルなのでしょうが、これは初めての系統のスキル、ですね」


 実際に聞かされると、なんだかショックが大きい。

 やはり、俺もゲームやアニメのように派手な魔法でモンスターと戦ったり、特別な剣術で強敵と渡り合ったりしてみたかった。


「やっぱりそうですか。こんなユニークスキルがあるんですね」


「おい、宇野。一人の相手をしてるな。一大事だぞ。って、こんな時に新入りの教育か? 見たことない顔だが」


「違いますよ大場先輩。これ見てください」


「今はそれどころじゃ」


「いいから!」


「なに……。何!?」


 宇野というのがお姉さんの名前らしい。


 そして、やってきた人が先輩ということは、ギルドにおいて、宇野さんの先輩ということか。

 しかし、ギプスしながらでも働かないといけないなんて大変だなぁ。


 まあ、ダンジョンを管理していれば、優秀な探索者と知り合うことができると聞いたことがある。

 実際に、外にモンスターが出ないのは、常駐する探索者が常に入り口を守っているから、という話らしいし、悪いことばかりでもないのかもしれないが。


「これは君のスキルか?」


「そうなんですよね? 宇野さん」


「そうですよ! そう言ってるじゃないですか! って、違います。それよりこっちですよ」


「こっちって、な、こ、こんなに!? 僕より共通スキルが多いじゃないか!?」


 大場さんも探索者なのか。


「うーん。確かに、これはうわさでもなんでもなく、僕の実体験だから知っていることだが、マイナスのユニークスキルを与えられた人間には、共通スキルが多く付与される」


「確かに、先輩のユニークスキルって常時骨折ですもんね」


「うるさい。だが、その通りだ。そのおかげで、共通スキルが多く、生活には不便していない」


「お箸持ちながら、お茶碗持てないじゃないですか」


「うるさい」


 本当にいたのかユニークスキルが常時骨折の人。しかもこんな近くに。

 そんな理由でギプスしてたのか。

 常時骨折なんて状態なら、さすがに辞めてもいいだろうに……。


「それで、どうしてこんなことをしていたんだ? まさか、新入りの相手をして、今の混乱の間はサボろうとしていたんじゃないだろうな?」


「違いますよ。彼女は探索者です。こんなユニークスキルが出たんで、服が大きくなっちゃって困っていたところを、受付としてできることを色々としていたんです」


「まあ、それは素晴らしい心がけだな。えーと、高梨さん。それは本当かい?」


「はい。宇野さんのおかげで服はなんとかなりました」


「ほらー」


「うーむ。どうやら嘘ではないようだが」


「だから言ったじゃないですかー」


 服は、な。服は。

 しかし今、宇野さんに彼女って言われたな。

 俺としてはまだ男のつもりだが、宇野さんからすればもう女の子ということなのだろうか。


「なあ、ちょっといいか?」


「……はい?」


 いつの間にやら、俺たちはずらっと探索者の人たちに囲まれていた。


 目の前には髭面のおじさん。俺の肩に手を乗せて話しかけてきたが、正直知らない。なんか怖い。


「なあ、お前さん。俺たちのパーティに入らないか?」


「……いや」


「ちょっと、怖がってるでしょ? 無理矢理はやめなさいよ。ね、ほら。女の子なら私たちのパーティの方がいいわよね?」


「え」


「いやいや。男女偏ってちゃダメだ。聞いたろ? 性別が変わったんだ。なら、俺らみたく男女混合のパーティがいいに決まってる」


「そうそう! あたしたちなら話がわかるよ!」


「いいや! 俺たちのパーティだ」


「私たちのパーティよ!」


「俺らだ!」


 何やら、俺をめぐって争奪戦が始まっていたらしい。

 誰が俺をパーティメンバーとして取るか、いがみ合っている。


 俺はパーティに入ることなんて考えたことなかった。

 だが、生存率を高めるにはパーティに参加していた方がいい。

 ただ、今の状態で焦って決めるのは得策じゃないよな。


「なら、私だって高梨さんを受付の後輩としてスカウトします!」


「宇野、何を言っているんだ?」


「大場先輩だって、普段から優秀な人材が欲しい、人手不足だって言ってるじゃないですか。高梨さんは優秀です。共通スキルもこれだけあります」


「それは、そうだが」


「なら反対する理由はないじゃないですかぁ! それになにより、高梨さんはかわいいですし!」


「そこが本心だろ。いや、そもそもこの議論は前提がおかしい。僕らに決定権はない。これは高梨くんが決めることだ」


 一気に誰もが押し黙ると、バッと俺のことを見てきた。


 いまさら潜伏して脱出するのは無理そうだ。

 このままだと、パーティへのスカウトで、長々と帰れなくなりそうだし……。


 サッと見た水晶にうつるスキルから、一つ対処法をひらめいた。

 じっと宇野さんを見てから、俺は無造作に席を立った。


「え、ちょ、ちょっと? 高梨さん?」


「どうするんだ?」


「え、いや」


「私たちよね?」

「俺らだろう?」


「違います。わ、私は違いますよー」


 ごめんなさい宇野さん。


 俺は宇野さんに注意をそらした。

 そのせいか、一気に全員が立ち上がった宇野さんめがけてなだれ込んだ。服装が同じだから、簡単に意識をそらすことができた。


 スキルも把握しなくてはうまく使えない。

 多いなら多いで、それらを認識しておかないといけない。


 だが、この状況じゃそれも難しい。


 ひとまず、なんとか出られそうだ。

 なんだかどっと疲れた。


「か、帰ろう……」

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