第7話:王太子の腰巾着・ハルト視点

「おい、まだ追い付かないのか?!」


「申し訳ございません、王太子殿下。

 ですが相手は馬糞令嬢でございます。

 なかなか逃げ脚が早く、洗練された貴族が追うのは難しいのです」


「はっはははは! 

 よく言った。

 確かに馬糞令嬢なら逃げ脚が早いだろう。

 だから今日はその言い訳を聞いてやる。

 だが今日だけだ。

 明日には何があっても追い付くんだ。

 どんな手を使っても追い付くんだ! 

 お前まで失敗したとは言わせんぞ!」


「それは……大丈夫でございます、御任せください。

 我が家の諸侯軍を動員して足止めいたします」


「余の知らん事だ。

 ハルト。

 お前が勝手にしたことだぞ」


「分かっております。

 殿下にご迷惑をかけることはございません」


「ディアンナ。

 余は馬糞令嬢が殺された時には、エイレン辺境伯爵家に遊びに行っていた。

 そうだな」


「はい、左様でございます。

 殿下をエイレン辺境伯爵家にお迎えできる事、光栄の極みでございます」


 茶番もいいところだな。

 誰がこんな杜撰なアリバイを信じるというのだ。


 少しでも考える力のある貴族なら、直ぐに王太子がやらせた事に感づく。

 やらせたのが王太子でなければ、激しい拷問で真実を自白させられるところだ。


 それにしても、馬車の中で何をしていた事やら。

 なんとも淫靡な臭気が籠っている。


 馬車に籠って秘め事に狂っていた本人達は何も感じていないようだが、呼び出されるこちらは吐き気を堪えるのが大変だ。


 我々側近に気付かれているのがいいアクセントになって、快感が強いのだろう。

 本当に悪趣味な奴らだ。

 セイラを虐めてきたのも殺すのも、自分達の快楽のためだろう。


 目障りなセイラをただ殺すのでは満足できず、盗賊達に嬲り者にされる所が見たいなんて、悪趣味にも程がある。

 だが、王家に仕える貴族は王や王太子には逆らえない

 

「おい、直ぐに伝令を送れ。

 領境に集結させている軍にセイラ達を襲撃させろ。

 ただセイラだけは絶対に殺すな。

 嬲り者にもするな。

 嬲り者にするのは王太子殿下の前でだ。

 ゴロツキ共にも絶対に守らせろよ!」


「了解いたしました!」


 さて、これまで七度も失敗して、二人の側近が不興を買っている。

 次はあいつらが虐められるか?


 いや、あいつらの事だ、誰かほかに人身御供を探し出すだろう。

 陥れて、手に入れたい領地や権利を持つ家を物色していることだろう。


 まあ、俺も人の事は非難できん。

 この仕事に成功すれば、コスタラン伯爵家の領地は我が家のモノだ。


 領地自体は広いだけで、ろくに穀物が育たない荒れ地だが、そこに住むコスタラン馬は何としても手に入れたい。


 あの馬は上手く使えば莫大な金になる。

 コスタラン伯爵家では宝の持ち腐れよ!

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