第5話:サリバン視点・荒れ狂う怒りのコスタラン馬

 コスタラン馬四頭と、前回の襲撃で捕獲した軍馬の一頭が、一緒に敵陣を粉砕してくれている。


 普通の軍馬が体高150センチ体重400キロ程度なのに対して、コスタラン馬は体高230センチ体重1400キロ程度、とても同じ馬とは思えない体格の差だ。


「ギャアァアア!」

「バケモンだ、バケモンが襲って来るぞ!」

「馬糞令嬢の化物馬だ!」


 許し難い悪口雑言!

 皆殺しにしてくれる!


「「「「「ヒィィィィィン」」」」」


 私が直接手を下さなくても、馬達が始末してくれるようだ。

 街道を封鎖していたバリケードは粉々に粉砕された。

 護っていたゴロツキ共も逃げ散った。


 騎乗していた連中もいたが、コスタラン馬を恐れて乗っている馬が暴れ出したから、全員落馬したので簡単に殺せた。


「ハンス、逃げた馬を集めてくれ、何かの役に立つ」


「ヒィィィィィン」


 王都に送られた馬の中で参謀格のコスタラン馬ハンス。

 別名クレバー・ハンスと呼ばれる賢い奴だ。

 ハンスなら人間の罠に嵌る事もないだろう。


 監視小屋か? 

 隠れている奴がいるかもしれない。

 ここで殺せるだけ殺しておいた方が、これからの襲撃を軽くできる。

 

「ビル、ドアを蹴破ってくれ」


「ヒィィィィィン」


 なんだ、フェロウシャス・ビルとまで呼ばれた、暴れん坊のビルが、ドアを蹴破るのを躊躇っているだと?

 中に何かあるのか?


 腐れ外道共が、絶対に許さん!

 女子供を攫ってきて、劣情の捌け口にした上に、その後で嬲り殺しにするだと!


「サリバンさん、私達は先に行きます」


 先頭の馬車を御しているシキルナが、監視小屋の前で怒りに震えている私の横を走り抜ける。


 横に乗っているスリアンナが、私が見逃したゴロツキがいないか、厳しい眼を左右の林に向けている。


 これだけ油断なく目配りしてくれていたら大丈夫だろうが、早く御嬢様の側につかねばならない。


「ヒィィィィィン」


 なんだ、キッドが俺の指示に逆らうだと?!

 まだ何かここにあるというのか?


 何があるのか分からないが、キッドが降りろと訴えているいじょう、下馬して監視小屋の中を確認すべきだろう。


 鬼が出るか蛇が出るか、油断するわけにはいかない。

 

「ヒィィィィィン」


 おっと、御嬢様の乗られている馬車の輓馬が駈歩から常歩に歩法に変えただと?

 もうこの辺りは安全だと判断したのか?


 いや、そのような判断はクレバー・ハンスが下すはずだ。

 いったい何がどうしたというのだ?

 この監視小屋の中に何があるというのだ?

 

「ヒィィィィィン」


 急げだと、まさか?!

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