第6話 絵葉書の中で夢を見る-後編②-

「ああ、良心的さ。なんだいその疑わしい目は。…よく分らんがどんな依頼だったか俺にも話しておくれよ。比較だ」

「鳶も同業なんでね、いいんじゃないか。ほれ先ほど言っていた四つ挟んだ隣町の男だ」

鳶さまはお猪口をくいっと傾けてアテを口に放り込んだ。

「それでしたら…お話します。私の依頼は、この額縁の女の顔が見たいというものです」

依頼主は頭にタオルを被ったまま、風呂敷を外し額縁のお嬢さんを鳶さまの前に差し出した。鳶さまはそのお嬢さんを横から見たりしたから見たりしながら何やらぶつくさ呟き、懐から一冊の手帳とペンを取り出した。後ろからこっそりと覗き込めばどうやら予定帳のようだ。びっしりと予定が書き込まれている。

「ううむ、そうだな…準備期間も含め、依頼請負時期は九か月後の三月、十日から二十四日迄の十四日間でどうだ?」

「え、すぐ請け負ってくださるんではないんですか」

依頼主は心底驚いたような顔をして前のめりになって鳶さまへ尋ねる。そうですよね、だってお師匠様はすぐ請け負いましたもの。

「俺の店は出張型でな、予約制なのよ。来年の三月が今請け負える最短の時期だ。これでも融通を利かせてやってるんだぞ?一応鴇の紹介扱いだからな」

ほれ、と鳶さまは先ほどの予定帳を依頼主に見せた。確かにページが真っ黒になる程びっしりと書き込まれており、十日から二週間以外は全て予約済になっている。

「さ、先ほど準備期間も含めてとおっしゃいましたね?」

「ああ、言った。それがどうした」

「準備期間はどれくらいかかるものなのですか?」

「そうさな、この依頼には特別な道具が要るからな…今日…いや明日から取り組んでも請負時期前に手に入るかどうか…」

「え?そんな馬鹿な!だってこちらのご店主は一時間と言いました!嘘を吐かないでください!」

鳶さまは隣に座るお師匠様を眺めて、大きく息を吐いた。大きなため息である。

「あのなあ、それはコイツだからだ」

鳶さまはのんびりお茶を楽しむお師匠様を指さして言う。

「コイツは俗に言う天才だ。十になる頃合いにはもうこの店を継ぎ、一人で運営してきた。依頼に合わせて支払いの調整もし、今まで大きな失敗などしたことがない」

「あるさ、鳶の知らないところで案外しでかしていたりするものさ。それに俺が天才ならそこら中に天才が溢れていると思うがね」

「こら話に入ってくるんじゃあない、ややこしくなるだろうが」

鳶さまは咳ばらいを一つして依頼主に向きなる。

「鴇はなんていった」

「…準備時間に一時間欲しいと」

「支払いは」

「私には額縁ごと絵葉書の女を手放すこと、そして彼女へはこの店に滞在すること」

「しばらく、と言ったんじゃないか」

鳶さまは依頼主の目をじっと見つめてそういった。依頼主は瞬きするのさえ恐ろしいとでも言いたそうな顔をして恐る恐る頷いた。

「もし、俺に依頼をした場合の支払いは。あー…鴇の紹介割引が入ってぴったり五百でどうだ?」

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