第7話 絵葉書の中で夢を見る-後編③-

「五百…もしかして、万ですか」

「ああ、必要経費と出張代金、それから請負料金全て合算して五百万」

「鳶にしちゃあ、えらい安価じゃないか。融通利かせてくれるのか」

「そりゃお前さんとこからの依頼だからな」

「これで安価…」

「鳶の店の売りは“どこへでも駆けつけます”だからな。妖や神隠しそういう類の案件であれば無条件で文字通りどこへでも駆けつけてくれるのよ。この店みたいに客を招かなきゃやってられない訳じゃないしな」

「だがその分、支払額はぐんと上がる。今のところ富裕層しか声掛けて来ねえもんな」

ガハハハッと大きな口を開けて笑えばその向かいでまた小さく震えだす依頼主。

「さて、あんたはどちらに依頼をかける?別に俺らじゃなくてあのけったいな爺のトコに駆け込んでも構わねえ。“行けるなら”だが」

鳶さまの目がスッと鋭くなる。お師匠様を見るとお師匠様も鋭い視線を依頼主に送っている。

「わ、私は…」

「行けはしないだろうね。だってそのお嬢さんは元々爺さんの店にあったのだから」

お師匠様は煙管の灰を皿に落とした。

「あんた、盗んだだろ」

「盗んでなど!支払いはしましたッ」

「自分が出せるはした金を店先に置いてきただけだろう。それは支払いとは言わない」

「だって、」

「あの爺さんは断ったじゃないか、きちんと“これは売れない。迎えが来るのをここで待っているだけだ”と言って」

お師匠様は煙管の手入れをしながら言葉を強くする。

「言ってたはずだ、これは決して誰にも売れないと」

「金なら用意すると言いました!なのにあの爺が譲らないから!」

だから盗ったのか、と鳶さまの低い声が響く。

「彼女も私の傍にいる方が幸せに決まっている。だから」

「だから悪いことはしていないとでも?そんな馬鹿な話があるか。その女はあの店で療養することを条件に破棄されずに済んでいたのに!」

「破棄?」

思わず零した言葉にお師匠様が少し視線を柔らかくして僕を見る。

「覚えているかい、一年前に鳶は半年山から帰ってこなかった時期があったろう」

「依頼が完了している筈なのにってお師匠様大慌てで爺さまやその他の同業の方に電話しまくってた時ですか」

「んんっ、そういう事はわざわざ口に出さなくても宜しい。だがそうだ、それだよ」

「結局鳶さまが何かいわくつきの品物を持って帰ってきたんでしたっけ」

「そう、人間の魂を喰らって生き続ける“絵葉書”をね」

「絵葉書…」

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