ふと、アイデアが

 物語の断片すら思いつかない。どれだけ思考を凝らしても面白いストーリーを生み出せない。何かを作り出すという事をしている人間にはよくある事だと思う。そんな時、私は外へ出る。自室に籠って悶々と考えているより、何も考えずにぶらっと外を歩く方が不思議とアイデアが湧くのだ。それは外界と接触することによって自分の世界が外側に広がるからなのか、単に足を動かして血流が良くなるからなのかは分からない。

 ということで今私は、自宅から二キロほど離れたところにある少し広い公園に来ているのだが、平日の昼間だというのに子供連れの家族が三組ほどいて、今は春休みだったか?と思った。

 今日は四月上旬並の気温だそうで、まだ二月が始まったばかりだというのに少し汗ばんだ。全身黒色の服を着てきたせいで、日差しが少しだけ痛い。でも風が吹くと肌寒いので、なんとも体温調節が上手くいかない気候だ。こんなに急に暖かくなっては桜の蕾も咲こうか咲くまいか葛藤していることだろう。私はカーディガンを脱ごうか脱ぐまいか迷っているのだから。因みにさっき自動販売機で買ったコーヒーは、迷わずホットを選んだ。夏になれば消えてしまう儚さがそうさせた。

 葉が全て散った桜のあいだを、子供たちがそれはもう元気に走り回っている。その子供たちの父親が、走り回る子供たちにてんやわんやしている。追いかけっこが急に終わったと思えば、「パパ、ロボットになって!」と無理難題を課してくるのだから恐ろしい。疲弊しきっても尚楽しんでいる風に笑顔を作って子供たちに気を使わせまいと頑張るその男性に、私は心の中で、「夕暮れまでの辛抱だ、男よ」と面白おかしく呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る