日々に飲まれる時は

 ふと、息が詰まりそうになる時がある。部屋にいる時、風呂に入っている時、映画を見ている時。それはいつどんな時に訪れるのか予想もつかないほど、日々の至る所にきっかけが散りばめられていて回避のしようがない。

 だから外に出る。外に出て冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。そうすると、幾分かましになる。

 私は今、歩道橋にいる。車達が忙しなく行き交う道路を上から見物している。または、校庭で無邪気にはしゃぐ子供たちの声を遠くに聞いている。バスケットボールに興じていたり、鬼ごっこをしていたりと、指先のかじかみにやられながらこうして一人歩道橋の上で文字を綴る私とは正反対のように見える。それは私も昔に経験しているはずなのに、なぜこうも遠い過去のように思えるのだろうか。実際に年月が過ぎ去っているのは確かなのだが、それ以前にそういった思い出から心が遠ざかっているように感じるのだ。

 そろそろ寒さも限界になってきたので、歩道橋から降りて家に帰った。しもやけになりそうな指先を電気カーペットとクッションの間に滑り込ませて温める。さっきまで飲んでいたアイスティーがテーブルの上に置かれているが、今は飲む気にはなれない。タンブラーについた結露も既に乾いていた。

 しばらくしてから風呂を沸かした。風呂が沸くまでの間、自室のベッドに腰かけて、扇風機の風に揺れる観葉植物達を眺める。寒い時期の植物達は夏と比べてあまり元気ではないが、それでも枯れずに寒さに耐えている。

 もうすぐ春が来る。そうすれば新芽も芽吹いて生き生きとしてくるだろう。寒い冬が過ぎ去ろうとしている。季節は必ず巡ってくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る