64. 『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』の熱量【アニメ感想】(※2024/1/11追記)

真野魚尾(まの・うおお)です。前回の3本に加えてもう1作品、2023秋に放送されたアニメを取り上げようと思います。



◆『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』


こちらは当エッセイの第47回で紹介した漫画『16bitセンセーション 私とみんなが作った美少女ゲーム』を原案としたアニメです。


★47. 気まぐれ積み本崩し(3)「大人向け」コメディ編【漫画】

https://kakuyomu.jp/works/16817330658975712480/episodes/16817330666245139896


こちらの漫画版は1990年代のPCゲーム業界を描いた、ちょっぴりノスタルジックなお話となっています。



◇年の差逆転ダブル主人公


一方でアニメ版のストーリーは2023年から始まります。ゲームグラフィッカーのコノハは、タイムスリップで原作と同じ1990年代との間を何度も行き来しながら、当時のゲーム作りに携わることになるのです。


中盤まではこのゲーム作りを背景に、原作キャラクターたちとコノハの交流が中心に描かれます。

中でも、原作では脇役だったプログラマーの守に注目です。お話が進むにつれて、もう一人の主人公と言っていい活躍を見せるのです。


ターニングポイントとなるのは第6話。原作に沿った展開ながら、より悲惨さが盛られていて笑えません(笑うけど)。しかし、どん底から逆転の狼煙を上げるCパートがとても熱い! 前半最高の見どころかもしれません。


以降は原作にもない要素が満載で、予想のつかない展開が繰り広げられていきます。




◇熱力学の定理


第8話ではそれまでの空気が一変します。コノハの代わりに守が1985年へタイムスリップし、謎めいた存在・エコーたちとゲーム作りを通じた交流をするのです。


エコーが提示する命題は、ゲーム作り、果ては創作活動そのものの本質に触れる、哲学的な問いかけでした。


「工程に従って作るだけでは、受け手の心を動かす物は出来上がらない」

「作品に熱を宿らせるのは人間の想像力である」


全体のストーリーからすると異質なこのエピソードによって、作品自体のテーマが浮き彫りになるのです。それはすべての創作者・表現者たちを勇気付ける創作讃歌でした。




◇可能性の共存


10話以降も再び急展開が訪れます。本来の歴史と分かたれ、望まぬ劇変を遂げてしまった2023年の秋葉原には、コノハ(と視聴者)のよく知る美少女文化は存在していなかったのです。


時を越えて再会を果たした守が、困惑するコノハ(と視聴者)に提案したのは、斬新な発想による解決法でした。


「変化の原因となった過去の成功は保持しつつ、対抗馬となる別作品をぶつけることで、美少女文化を存続させる」


二人が目指したのは、沢山の人が選び取った現在を否定せず、コノハが望む現在をも両立させる、共存の道でした。




◇ロマンスは香り付け


これまでもそうであったように、その後も予測のつかない展開が次々と起こります。(おそらく意図的な)迷走で予想を裏切りつつ、期待に応える大団円へと着地させる手腕には感服せざるを得ません。


最終話では、問題解決へ至る過程をあえて詳しく描写しなかったのもポイントです。コノハたちの頑張りを終始見守ってきた視聴者にならば伝わるでしょうし、くどくどと説明するのは野暮というものです。


同様に、コノハと守がお互いに向ける感情について明確にしないスタンスも好感が持てました。「想像」の余地を残したのでしょう。粋な計らいです。


とはいえ、時を越えた幾度にも渡る出会いと別れ、そして共同作業で培われた絆の向こうに、互いへの信頼と尊敬以上のものを見出だそうとしてしまうのも無理からぬことです。


コノハと守、あるいは冬夜 (コノハをお姉様と慕う女性)とコノハの関係に、そこはかとなく感じるロマンスの香りは、文字通り本作のフレーバーであったと思い返します。




◇再び想像力


人間の持つ高度な知性というと、何を思い浮かべるでしょう。記憶力? 論理性? 私は想像力を挙げます。


人は想像することで他者を思いやり、無から有を創り出し、来るべき未来へと備える生き物です。創作という行為は、人が前へ進む意志の具現化であると、私は心得ます。


創作への向き合い方に対する深い共感。

想像力のポジティブな可能性についての再確認。


これらこそが、本作品『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』から得られた貴重な収穫だと思っています。




(2024/1/11追記)


補足です。某所での指摘で伏線に気付きました。


第5話の9:45付近(CM除く)で、守のPCの上にさり気なく封筒が置いてあります。この封筒の色と形が、最終話で守がコノハに託した自分への手紙と同じなのです。


最終話で守と一旦別れた直後、コノハは5話(1999年6月4日)の1週間前(5月28日)にタイムリープしているので、守視点では短期間に二度再会しているのですよね。


あの時点で守が手紙を読んでいたか否かは明確にされていませんが、コノハへの反応に違和感を覚えた理由に納得がいきました。細やかな描写まで手が行き届いた作品だなと改めて感じました。

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