10. 縁あって『ゴールデンカムイ』【漫画感想】

真野魚尾 (まの・うおお)です。前回は格闘ゲームについてお話しました。その中の『サムライスピリッツ』にナコルルというアイヌの女の子が登場します。


それもまたきっかけの一つでした。真野はアイヌ文化に興味を持ち、知里幸恵『アイヌ神謡集』、知里真志保『アイヌ語入門』を始め、アイヌ関連書を次々と手に取るようになります。



◆『ゴールデンカムイ』野田サトル


それから約二十年後、縁に引き寄せられるようにして出会ったのがこの作品でした。明治時代の北海道でアイヌの少女と元帰還兵の青年が繰り広げる冒険活劇です。



◇公式のキャッチフレーズは的を射ています


緻密な取材に裏付けられたリアリティが真に迫る怪作だと感じました。「カムイは細部に宿る」といったところでしょうか。表現された形は必ずしも事実そのままではなく、本質を汲み取ってエンタメに昇華させている点が実に非凡です。


金塊を巡る各勢力入り乱れての情報戦、襲い来る猛獣や凶悪犯との息を呑むアクションは勿論、少数民族の暮らしやグルメ、果てはお下劣ギャグからサスペンスホラーまで、次の瞬間何が飛び出すか分かりません。まさに「闇鍋」です。



◇品の良さと面白さは反比例するの法則


実に多彩で幅広い、あえて悪し様に言えば節操のない作風には、ある意味読者としての器が試されます。ちなみに真野は最初から最後まで余さず許容できましたし、一度もダレることなく楽しめたと胸を張って言えます。


伝説の「探偵」回を読んだ時も真野は大爆笑でした。幼少期のコロコロ・ボンボンに始まる下ネタの英才教育を受けて来たおかげでしょう。後日、一般的読者の反応との温度差にショックを受けるまでがセットでしたが。


ちなみに本作は男性キャラの「サイズ」もしっかり設定されていらっしゃるようで、真野も読者としては尊敬を、創作者としては共感を覚えます。



◇驚きがたくさん(ネタバレ回避)


漫画という形態を存分に活かした見せ方や筋立ても秀逸です。その最たるものは、物語後半に登場する砂金採りとヒグマ? のエピソードでしょう。個人的にはそれに並ぶ驚愕のシーンがもう2つほどあります。


物語中盤の一幕です。「あぁ、この人達の過去話なのね」と思いきや、最後まさかの「◯見◯◯◯」発言で思わず声が出ました。「あんたの過去編やったんか~い!」って。同シーンはアニメでの演出・演技ともにお見事でした。


過去話といえば後の「探偵」の人も。「共犯」になる直前の1コマで、それまでの青春ドラマからサイコスリラーに急変する展開には心底ゾッとしました。恐怖も驚きも通り越して笑えました……いえ、全然笑えませんが。



◇一人だけ名指しにする


尾形……登場から退場寸前まで何を考えているのか分からない人でした。ちょくちょくエピソードは提供されるのです。それでその時は分かったつもりになるのです。でもまた新しい情報が出てくると「あれ? やっぱ違うな」って。


で、最後は「お前そうだったんか……」って。今までのあれこれが全部繋がるのです。いがみ合っていた男こそ実は理解者で。そんなしがらみをも全部取っ払い、純粋に一狙撃手となった瞬間、あのライバルもまた別の理解者であったのかな、と。



◇「死に様は生き様」理論、再び


美しい散り際も、無様を晒す去り際も、どちらもまた素敵なものです。


自分の完璧な瞬間は今だと言い切ったあの方も。

決して満足せずもっと暴れたかったと悔しがったあの方も。


己の誇りを懸けて戦い抜いたすべての男たちに敬礼。



好きなキャラ:土方歳三、牛山辰馬、都丹庵士、菊田杢太郎

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