第35話 少女の正体(羽人の場合)

 右往左往うおうさおうの末、ようやく長い謁見えっけんが終わりを迎えようとしていた。


「――――ということで、剣に挑む三人は作戦決行の明朝みょうちょうまでに万全ばんぜんの準備を整えておくように。では、これにて一旦解散を……」

「ちょい待ち、王様。三人とはどういうことだい?」


 剣に挑む者は、オレと四天の二人は決定している。しかし、王の言う三人目とは一体?


「おっと、スマンスマン。紹介するのを忘れておったな」 


 ここで王は、思い出したかの様に隣に立つ例の黒髪の少女へ視線を向ける。


「さぁ、彼等に挨拶するんだ」


 促された少女は一歩前に出て口を開く。


「申し遅れました。アタシが明日、御二方と行動を共にする三人目となります。どうぞよろしくお願いします」


 深々と頭を下げる彼女の姿を見て、オレは再び訊ねる。


「嬢ちゃんが三人目?」

「ハイ、そうなりますね」


 オレと四天を軽くあしらった実力は素直に認める。だが、それはあくまでも“遊び”や“試し”での話でしかない。


「訊くが嬢ちゃん。実戦の経験は?」


 これがないでは、さすがに三人目として認めるのは厳しい。


「いえ、特にその様な経験は……ただ、市井しせいで行われた武闘大会では何度かの優勝を経験しております」


 つまり、実戦経験は皆無ってことか。


「……武闘大会と言ったが、具体的にどんな大会に参加してたんだ?」

「どんなって……それはちょっと……」


 少女は何故か視線を背ける。


「何だ、言えないのか?」


 せめて大会の名前や規模を知れば、最低限の実力は図れると思ったんだが。


「いえ、じつはアタシが参加していた大会というのが……その、あまり表沙汰に出来ないものばかりでして……」

「表沙汰に出来ない?」


 ここでふとある“噂”を思い出す。それはここ一、二年の間に聞いたもので、何でも十代の少女がしょうされる裏の大会を圧倒的な実力で優勝を……待てよ!?


「ねぇ羽人? 私には裏の大会と聞い一つて思い出した噂があるぞえ」

「ああ……たぶん、オレもちょうど同じことを考えていたところだ」


 そう、オレと四天は気づいてしまった。目の前に立つ少女こそが、その噂の“元凶”であることを! そして、気づいてしまったからには必然的に……


「わ、わかったぜ嬢ちゃん。アンタが三人目になるのは受け入れるぜ」


 彼女を三人目として認めるしかない……のだが?


「ただし、確認しておきたいことがある」


 オレは少しきつめの口調で続ける。


「剣に挑むってことは、成功すれば英雄。失敗すればただの犬死だ。それを知った上で本当に挑む覚悟があるんだろうな!?」


 突きつける非常な現実。これに少女は数秒の間をおくと、りゆとした表情で臆することなく答えた。


「もちろんです! アタシはこの国の姫、それくらいの覚悟ならとっくに出来てます!!」

「……そうか、覚悟があるならそれでいいんだ。悪かったな、つまんねぇことを訊いちまって……ん? “この国の姫”だって!?」


 一瞬聞き間違えかと思っていると、四天が突然声を荒げる!


「思い出したぞえ! この少女は王の娘だったぞえ!」

「何だって! じゃあ、本当にコイツはこの国のお姫様って訳なのか!?」

「間違いないぞえ! 前に会った時は五、六歳くらいの子供だったから、すぐには気づかなかったぞえよ!」

「そ、そうなのか?」


 オレはてっきり、どこぞの暗殺者一族の秘蔵っ子だとばかりに想像してたんだが……いやはや、実際はわかんねぇもんだな……うん。

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