第34話 報酬(四天の場合)

「――――では、羽人殿は依頼に了承してくれたということでよろしいかな?」

「おうよ王様! アンタの切符きっぷの良さにオレは惚れたぜ♪」

「いや、惚れられるのは有難いが、は亡くなった妻へみさおを立てている身であって、そういうのはちょっと……」


 そんなややズレた会話は置いといて、取り敢えずは彼等の取り引きは成立する。


「――――さて、次に四天殿の報酬についてだが……」

「まさか、私にも『公爵の地位を』とか言うんじゃないぞえね?」


 仮にそうだとしたら、非常に面倒臭そうだ。


「ハハハ、四天殿が望むならそれでかまわぬが、一応は別の物を用意してあるぞ」

「別の物? 公爵の地位に匹敵ひってきする物なんてそうそう……」

其方そなたへは報酬は“竜の涙”で如何いかがかな?」

「え? 今、何て……」

「『竜の涙で如何かな?』と言ったんだが……不服か?」

「なななななななっ!ちょ、アンタ!! 竜の涙といえば、伝説級の魔石といわれるものぞえよ!! そんなトンでもない遺物いぶつをどうして!?」

「うむ……アレは元々、我が王家で先祖代々の最々重要機密として受け継がれておってな……」

「受け継がれる!? ということはにあるのかぞえ!?」


 竜の涙……それは永い歴史の中でも常に伝説の中でしか語られなかったものであり、魔に関わる者なら例外なく欲する魔石に他ならない!


「な、なのに、それがまさか……」


 驚愕して間にも、王は淡々と訊いてくる。


「どうだ四天よ? ちと安い報酬かも知れんが、今回の依頼はソレ・・で受けてくれぬか?」


 受けてくれぬかだって? さっきの羽人の公爵報酬といい、この躊躇ちゅうちょのない気前の良さは一体……いや、そもそも王にとっては人類のためになら、秘宝や地位なんてものは関係ないのかも知れない。


 だとしたら、この王はよっぽど……いや、それを考えるのは野暮というもの。とにかく、ここまで大盤振る舞いされては断る理由を見つけられないので……


「わかったぞえ……その依頼。この四天がつつしんで受けさせてもらうぞえ」


 相手の心意気にひかれて引き受けることを決める。そして、それを確認した王は心底ホッとした表情で言う。


「おお、人類二大巨頭といわれる羽人殿と四天殿の協力が得られたことに心から感謝するぞ!」


 人類二大巨頭か……余多あまたの軍を単独での壊滅かいめつを可能とされる最強の無双銃士むそうじゅうし“羽人”。そして、史上初の火水風雷となる四大上級魔法を同時に極めたとする魔法使い最強のしょうされる“四天”の私。


 ちまたではこの二つの“最強”を合わせる形で、“人類二代巨頭”として人々からは呼ばれている。

 もっとも、私も羽人も世間から何と呼ばれようが基本的には気にすることはない。ただ……時折街を歩いていたら子供達からサインを求められるのは少々懸念材料けねんざいりょうにはなっている。


 ちなみに求められるサインの総数が、羽人よりも私の方が三割程多いことについては内緒にしている。

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