第33話 報酬(羽人の場合)

「北と西……両方の砦が落ちた……だと?」


 王にとってはあまりにもショッキングな報せだったんだろう。気の毒なくらいに狼狽ろうばいすると、そのままへたり込むように玉座へ腰を下ろす。


「おと……王様、大丈夫ですか!?」


 お付きの嬢ちゃんが気遣うものの、その声は届いていない様子だ。


「バ、バカな……いくら何でも……あ、ありえるのか?」


 深く動揺どうようする王。しかし、それでも己のやるべき役目を思い出して己を奮い立たせる!


「只今より、我が国は第一級戦争状態とする! 騎士団長は直ちに国民の避難及び、そのための人選を開始! それから、食料や水……その他諸々の手配、確保も急がせるんだ!!」

「ハッ!」


 命令を下された頭に血が上りやすい騎士団長は、早々に部下へ的確な指示を出し始める。


「急げ! 王の命令だぞ!!」

「早くしろ! 物資の運送は誰が手配するんだ!」

「国民へ説明するための原稿は――――!!」


 次々と行動を開始する騎士達。これ等を見てると本来の彼等の役目が、戦いよりもこういった非常時の活躍こそ本職ではないかと……いや、実際にそうなのかも知れない。


 ――――数分後……


「騎士のヤツ等、みんな出払っちまったみてぇだなぁ……」

「なぁに、それだけ真面目に動いてる証拠ぞえ」


 オレと四天は、がらんどうになった部屋を眺めながら話す。


「ところで王様よ? さっき言いかけた剣の話はどうなったんだ?」

「おお、そうであったな」


 どうにか落ち着きを取り戻した王は、しっかりとした口調で話を始める。


其方そなた達へ話そうとしていたのは、“魔王を倒せる剣”についてだ」


 魔王を倒せる剣。やっぱりそうだったかと予想はしてたが……


「あのよ王様? そんな大層な剣が本当に実在するものなのか?」

「おそらくな。そうでないと犠牲になった者の魂がむくわれん!」


 そう言った王のこぶしは、膝の上で固く握られたまま震えている。


「じゃあ剣が実在するとして、オレと四天を呼んだのは……」

「察しの通りだ。其方達には剣の奪取だっしゅを依頼するつもりだ!」


 これまた予想通りの答えだ。だが、それを聞いた上で、オレは続ける。


「剣を手にする手立ては?」

「城の地下にゲート転送装置がある。それを使えば剣が存在するとされる天空城へ行けるはずだが……」

「“だが?”その言い方だと、まだ何かあるみてえだな?」


 この問いに王の顔があからさまに曇ったので、仕方なくオレがその原因を口にする。


「守人だろ?」

「し、知っていたのか?」

「まあな……っといっても、情報源は御伽話おとぎばなしがせいぜいさ」


 情けない情報源に、思わず苦笑いをして肩をすくめる。


「いや、それで十分だ。我々もそれ以上のことは大してわかっていない身だからな」


 王もまた、苦笑いをして肩をすくめた。


「っで……どうだろうか二人共? この依頼、受けてもらえ……」


 おそるおそる訊かれるが、オレはあわい期待を打ち消すかの様に先手を切る。


「悪いが王様。オレはそんな危ない橋を渡るつもりは……」

報酬ほうしゅうならば、それなりのモノを用意させてもらうつもりだ」


 王からのと聞いて、一度は断ろうとした気持ちを取り敢えず引っ込める。


「報酬? 何だいそれは?」

公爵こうしゃくだ」

「……はい?」

「羽人殿には公爵の地位を授与じゅよすることを約束する。もちろん、それに見合うだけの財力と土地も一緒にな」

「なんだと!」


 いきなりの“公爵”発言には、さすがに驚くしかなかった!


「い、いいのか? 公爵の地位っていえば、その……貴族きぞくの中でも最高位になるんじゃ?」

「別にかまわんさ。そもそも、地位程度で人類が救われるなら安過ぎるくらいだ」


 言い切る口調に一切の迷いを感じさせない。


「ハ、ハハハ……王様よ。アンタ、とんでもねぇ男だぜ!」


 たった一つの依頼のために公爵の地位を約束する度量どりょう豪胆ごうたんさに、オレはある種の感動さえ覚える。


「気に入ったよ! その依頼、この羽人がきっちり引き受けたぜ!!」

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