第29話 王城にて(四天の場合)

 ここはとある王国中心部にたたずむ由緒正しき王城。現在この城の主から招待された私は、城内に用意された“謁見えっけんの間”とやらへ通じる扉の前にまでやって来ていた。


「これはこれは四天してん様。ようこそお越しくださいました!」


 愛想あいそ良く“通り名”を呼んで出迎えてくれるのは、藍色あいいろの鎧に身を固めた屈強な二人の騎士。


「ささ、どうぞ中へ……王がお待ちかねです!」


 私は彼等に促されて歩を進める。


「それじゃ、お邪魔するぞえ……」


 気乗りしない足取りで進んだ先は、盛大なダンスパーティーでも開けそうな広い大部屋。そこには数百人にも及ぶ騎士達が左右に別れ、規則きそく正しく整列して待ち構えていた。


『四天様に敬礼けいれい!!』


 騎士団長らしき男の号令に合わせ、全員が一子違わぬ動きで自らの剣を胸の前に立てる。


「はぁ……毎度毎度、本当に仰々しい出迎えをしてくれるぞえ」


 多少のウンザリ感に飽きつつ奥に目をやると、豪華な玉座に威風堂々いふうどうどうと座る初老の王の姿ある。そして、隣には他の騎士達と違う白銀はくぎんの鎧を身に付けた長い黒髪の少女が付き添う様に立っていた。


「はて、あの娘は誰だったぞえか?」


 見た感じでは十代後半のあどけなさが残る少女。しかし、その澄んだひとみにはどこか見覚えがあった。


「う~ん、どこで会ったぞえか?」


 気になって過去の記憶を探っていると……


「久しぶりだな四天。変わりはないか?」


 王だ。人目もはばからず身分違いの者へ声をかけるとは、相変わらずに気さくな男だ。


「ああ……お陰様で元気ぞえよ。ところで……」


 私は王の横に立つ少女に視線を移す。


彼女これのことか? じつは……」


 王が言いかけた時だ。


 バァン!!

 何の予告もなく、何者かが勢い良く扉を蹴り飛ばして場内に乱入して来た!


「わりぃな、遅れちまったぜ!」


 王を前にして、まったく悪びれもしない態度で言ってのけたは、羽帽子をかぶった男だった。


「コ、コラ、貴様! 勝手に入るなと言ったろ!!」

「王の前だぞ! 神妙にしないか!!」


 彼のあとから憤りながら追って来たのは、扉の前で挨拶を交わした二人の騎士。


「申し訳ありません王! 我々が止める間もなく、この者が勝手に……」

「すぐに追い返しますので、しばしお待ちを……!」


 二人の騎士は申し訳なく告げると、男をつまみ出そうと手を伸ばす……が!


「コ、コラ! どこにいく!?」


 何と男はその手からスルリと逃れ、場内を縦横無尽じゅうおうむじんに駆け回り始めた!


「オイ、頼むから誰かそいつを捕えるのを協力してくれ!」


 加勢かせいを求められる騎士達。最初こそ戸惑いはしたものの、羽帽子の男をどうにかしない限りは何も始まらないので仕方なく手を貸すことに。


「いったぞーーー! 捕まえろ!!」

「右だ右! 違う、そっちは左だーーー!!」

「何をしている! さっさと捕まえろーーーー!!」


 いつの間にか全ての騎士達が懸命けんめいに羽帽子の男を追いかけ回すも……


「ホラ!ホラ!ホラーーーー!! おせーぞ騎士さん達よ!!」


 ひょうひょうとしたフットワークによって、のらりくらりと躱され続け、ついには……


「はぁ、はぁ、はぁ……だ、ダメ」

「お、追いつけない……」

「く、くそ……」


 ほとんどの騎士が根を上げてしまい、息を切らしてその場にへたり込む者さえ現れる始末となった。


「ふぅ、しょうがないぞえね……」


 さすがにこのままにはしておけないと思った私は、羽帽子の男の暴挙を止めるために杖を構えるが……


「貴女の手を煩わせる必要はありませんわ」

「ぞえ?」


 声がした方を見ると、そこには王の傍らにいた黒髪の少女が立っている。


「見ててください四天のお姉様。あの方はアタシが捕まえてみせますから!」

「オ、オネエサマ!? 確かにエルフの私は人間から見たら実年齢より若く見えるけど、これでも三〇〇は超えて……って、あんたがアイツを捕まえるぞえかい?」


 急な展開には驚くが、やりたいと言うならやらせるだけだ。


「それじゃあ、お願いしてもいいぞえかい?」

「はい、任せてください! これでも追いかけっこは昔から得意だったんですよ♪」


 黒髪の少女は、自信たっぷりの爽やかな笑顔でそう応えた。

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