第29話 王城にて(四天の場合)
ここはとある王国中心部に
「これはこれは
「ささ、どうぞ中へ……王がお待ちかねです!」
私は彼等に促されて歩を進める。
「それじゃ、お邪魔するぞえ……」
気乗りしない足取りで進んだ先は、盛大なダンスパーティーでも開けそうな広い大部屋。そこには数百人にも及ぶ騎士達が左右に別れ、
『四天様に
騎士団長らしき男の号令に合わせ、全員が一子違わぬ動きで自らの剣を胸の前に立てる。
「はぁ……毎度毎度、本当に仰々しい出迎えをしてくれるぞえ」
多少のウンザリ感に飽きつつ奥に目をやると、豪華な玉座に
「はて、あの娘は誰だったぞえか?」
見た感じでは十代後半のあどけなさが残る少女。しかし、その澄んだ
「う~ん、どこで会ったぞえか?」
気になって過去の記憶を探っていると……
「久しぶりだな四天。変わりはないか?」
王だ。人目もはばからず身分違いの者へ声をかけるとは、相変わらずに気さくな男だ。
「ああ……お陰様で元気ぞえよ。ところで……」
私は王の横に立つ少女に視線を移す。
「
王が言いかけた時だ。
バァン!!
何の予告もなく、何者かが勢い良く扉を蹴り飛ばして場内に乱入して来た!
「わりぃな、遅れちまったぜ!」
王を前にして、まったく悪びれもしない態度で言ってのけたは、羽帽子をかぶった男だった。
「コ、コラ、貴様! 勝手に入るなと言ったろ!!」
「王の前だぞ! 神妙にしないか!!」
彼のあとから憤りながら追って来たのは、扉の前で挨拶を交わした二人の騎士。
「申し訳ありません王! 我々が止める間もなく、この者が勝手に……」
「すぐに追い返しますので、しばしお待ちを……!」
二人の騎士は申し訳なく告げると、男をつまみ出そうと手を伸ばす……が!
「コ、コラ! どこにいく!?」
何と男はその手からスルリと逃れ、場内を
「オイ、頼むから誰かそいつを捕えるのを協力してくれ!」
「いったぞーーー! 捕まえろ!!」
「右だ右! 違う、そっちは左だーーー!!」
「何をしている! さっさと捕まえろーーーー!!」
いつの間にか全ての騎士達が
「ホラ!ホラ!ホラーーーー!! おせーぞ騎士さん達よ!!」
ひょうひょうとしたフットワークによって、のらりくらりと躱され続け、ついには……
「はぁ、はぁ、はぁ……だ、ダメ」
「お、追いつけない……」
「く、くそ……」
ほとんどの騎士が根を上げてしまい、息を切らしてその場にへたり込む者さえ現れる始末となった。
「ふぅ、しょうがないぞえね……」
さすがにこのままにはしておけないと思った私は、羽帽子の男の暴挙を止めるために杖を構えるが……
「貴女の手を煩わせる必要はありませんわ」
「ぞえ?」
声がした方を見ると、そこには王の傍らにいた黒髪の少女が立っている。
「見ててください四天のお姉様。あの方はアタシが捕まえてみせますから!」
「オ、オネエサマ!? 確かにエルフの私は人間から見たら実年齢より若く見えるけど、これでも三〇〇は超えて……って、あんたがアイツを捕まえるぞえかい?」
急な展開には驚くが、やりたいと言うならやらせるだけだ。
「それじゃあ、お願いしてもいいぞえかい?」
「はい、任せてください! これでも追いかけっこは昔から得意だったんですよ♪」
黒髪の少女は、自信たっぷりの爽やかな笑顔でそう応えた。
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