第28話 羽帽子の男

 ここはとある街の廃墟はいきょ

 聞くところによれば、この街は数ヶ月前に魔王軍に蹂躙じゅうりんされ尽くされたらしく、そのためにあらゆる物が分け隔てなく無慈悲むじひに破壊されて朽ち果てていた……っが、そんな崩壊ほうかいした世界にも関わらず、そこには一人の男がいた。

 男の見た目は中肉中背の三十代半ば。大きな羽根飾りがついた帽子を深くかぶり、適当な瓦礫がれきを椅子代わりにして堂々と座っている。


「……この辺りも粗方あらかたやられたみてぇだなぁ」


 男がどうしてこんな場所にいたのかはわからない。ただ時折、ツバの影から覗かれる眼光は周囲の惨状をあわれむみたいに眺めるが、やがて……


「しゃーない、他の場所へ行くか」


 何かを諦めたみたいに、どこかへ立ち去ろうとする……その時だった!


『そこを動くなぁぁぁーーーー!!』


 突如、瓦礫の陰から姿を現したのは、完全武装フルアーマーほどこした七人のリザードマン蜥蜴男の集団。

 彼等は男を視界に捉えると、あっという間に逃げ道を塞ぐように周囲を取り囲む!


「ガハハハーーーー!! 驚いたか羽人はねびと! ここが貴様の墓場だ!!」


 大剣を持つリーダー格のリザードマンは、勝ち誇ったかのように告げていると?


「ほぅ、トカゲ如きのくせに人間様と同じ言葉を話すとは大したもんだな?」


 男……もとい、羽人もバカにした口調で返す。


「ガハハハ! その減らず口も、今日までだと思うと口惜しいものがあるな!」


 二人の会話が続くなか、他の六人は羽人をこの場から離脱りだつさせまいと徐々に包囲網ほういもうを狭めていく。


「さて、どうする羽人よ? これだけの数の完全武装されたリザードマンを相手に何が出来るか見せりゃ……!」


 パァン!


 乾いた音が響いた直後、リーダー格のリザードマンは口から大量の緑の血液を吐き出して倒れた。


「ん、何だ? 口の中は武装してなかったのか?」


 悪びれもしない羽人。彼の両手には黒光りする鉄の塊拳銃それぞれに握られており……


「じゅ、銃だぁーーーー! みんな気をつけ……!!」


 パァン!パァン! 


「お前等はバカか? 今しがたバレた弱点を隠さなくてどうするつもりだ?」


 羽人は呆れた顔で二つの銃口から出てくる煙に息を吹き消す。


「くっ……口は手で塞げ! 他の部分は自身の硬いうろこと武装でどうにかやり過ごして……」


 パァン!パァン!


「なぎゃあ!」


 またもや響く銃声……今倒された者は、両目を撃ち抜かれた。


「ハハハ、いくら硬かろうが武装しようが、目玉めんたまだけはどうしよもねぇよな?」


 立て続けに三人の仲間がやられことで、残りのリザードマン達は怯える……が!


「う、狼狽うろたえるな!数の有利は我々にある!! 全員でかかれば、絶対に勝てるはずなんだ!!」


 一人の勇敢ゆうかんなる者がげきを飛ばしたことにより、皆の目には覇気が戻る!


「そ、そうだ!」

「おう、やってやるぜ!」

「オレ達でコイツを倒すんだ!」


 奮い立つ四人は四方に散ると、各々の武器を強く握り締めて構える!


「ほう、四方からの同時攻撃か。賢い作戦だな……うん」


 羽人が感心したかのよう頷いた瞬間!


「今だぁぁぁぁーーーー!!」

「「おおおおおおおぉぉぉぉーーーー!!!」」


 四人は合図と共に一斉に飛びかかる! だが、これに対する羽人は正面に捉えた一人へ向かって駆け出した!


「何!?」


 予想外の展開に驚く正面のリザードマンだったが、すぐさまに我に返ってから持っていた棍棒こんぼうを力任せに振り回す!!


「うらぁぁぁぁーーーー!!」


 ブン!!


 しかし、攻撃は虚しくも空を切った末に羽人の姿を見失う!


「上だ!」


 上空からの声に無意識に反応する正面のリザードマン。他の者達もそれを聞いて揃って見上げた!!


「……悪いな」


 視線の先には、鳥が羽ばたくが如く二丁の銃を手にした両腕を広げる羽人の姿が映る!!


「なっ!」

「あっ!」

「そんな!」

「……!」


 完全にきょを突かれて硬直こうちょくする四人のリザードマン……そんな彼等が最後に見る光景は!?


 ――――その後、廃墟に再び静寂が訪れた際は羽人の姿はなく、地面には七人のリザードマンのしかばねが無残に転がってるだけだった……

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