人の章

第27話 凍てつく砂漠

 ここはとある辺境にある砂漠地帯さばくちたい

 灼熱の太陽が乾いた砂の大地を照らし、生きとし生きる者の水分を容赦なく奪っていく様から見る地獄と言っても過言ではない場所……なのに、何故かそんな場所を平然と横断する何者かの姿がそこにはあった。


 その者は場に似つかわしくない黒い厚手のフードとローブに身を包み、魔石ませきをはめ込んだ杖を頼りにゆっくりとあゆみを進めていた。

 そして、さらに観察を進めてみると、小柄で華奢きゃしゃ。凹凸のある魅力的な体躯たいくから女性だということが窺える。


 ただこの女性……場に似つかわしくのは格好だけではなかった。


「うう……寒いぞえ……」


 ……彼女の口からは確かにそう聞こえた。


 この場においてはもっとも似つかわしない縁遠い言動だが、…彼女はそれを本心から発したのだ。

 その証拠に実際の彼女は小刻みに身体を震わせ、吐き出す息も明らかに寒冷地かんれいちのものと同じく白い。


 そんな凍える彼女が砂漠を進み続けてると……


「おやおや……また、ぞえか?」


 “また”とは一体?


 ゴゴゴオオオオォォォォ…………!!!


 突然の地響き? それとも砂響いうべきか? どちらにしろ、地面が揺れる程の緊急事態のなかで盛大に砂埃を撒き散らして姿を現れたのは、砂漠の人喰い巨大ミミズこと、サンドワームだ!!

 大きさは普通サイズで一〇〇メートル、大型とものなると二〇〇メートルにもなる個体も存在する!


 また、獰猛どうもうなその性格からちまたでは“砂の殺し屋”と称され、これまでにも数多くの冒険者達がエサという形で犠牲になっているとも信しなやかにささやかれる!


「ガアアアアアアアアァァァァーーーーー!!!」


 ……ちなみに彼女の前で耳もつんざ咆哮ほうこうを上げるサンドワームは、どう見繕っても三〇〇メートルを越えていた!!


「やれやれ……これは大物ぞえね」


 ただ彼女にはそんな規格外の怪物を目の当たりにしても動じる気配はなく、それどころか涼しげな声で言い放つ。


「アイスアロー」と……瞬間、辺りの空気が急速に音を立てて凍りつく!!


「やれやれ……また・・寒くなりそうぞえ」


 変わらずの白い息を吐いた直後、凍った空気はおびただしい数の氷の矢に変化して……


「ホレ!」


 彼女ご指先一つを動かすだけで、一斉になってサンドワームへ襲いかかった!!


「ギョオオオオオアオオオーーーー! オオオ……」


 凍てつく矢の雨あられによって全身を貫かれ、断末魔だんまつまと共に凍りつく巨体……結果、サンドワームと呼ばれていたものは、十数秒もしない内に巨大な氷像にへと早変わりしてしまう。


「ふむ、我ながらいい出来に……ハックション!!」


 自らが生み出した冷気のせいでに豪快ごうかいにくしゃみをする彼女。この反動により頭に被っていたフードがはだけて素顔があらわに。


「くぅ~、やっぱりをやると相当に冷えるぞえね」


 年寄り染みたセリフと裏腹に現れたのは、腰まである長い金髪なびかせ、色白の肌と尖った耳を合わせ持つ美しいエルフだった。


「う~寒い。風邪引かない内にさっさと先を急ぐぞえ」


 凍えながらも再び歩みを始める彼女。その足は一体どこへ向うのだろうか?

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