第26話 予期せぬ決着

「だ、だめだ……終わっては……あの子に……」


 騎士は大量の出血によって意識が薄れるなか、とある少女と交わした約束を思い出していた。


「そう……だった……ボクは彼女に……“素敵な未来”を約束していたんだ!」


 瞬間、彼は意識を完全に覚醒させてこの世に踏み留まる。そして!


「守人よ……すまないけど、もう少しだけつきあってもらうよ!」


 力強い言葉を吐き出すと、ふらつきながら前へ進む……だが、そんな様子を見ていた守人は、そんな彼を鈍重どんじゅうまととみて侮蔑ぶべつする。


「フッ、そんなボロボロになってまで戦うなんて、無様なものね」


 口撃の直後、無慈悲なる一突きが騎士の胸を貫いた!!


「ごふっ!」


 大量の吐血と共に、みるみる血の気が失われていく表情。それは誰が見ても“死”への直前であることが明白。だが、それでも騎士は!


「未来……作ると……約束……」


 さらに前へ進み、守人の首へ両腕を絡みつかせて絞め上げる!


「なっ、この死にぞこないが……!」


 イタチの最後っ屁とも思える悪あがきに苛つく守人は、鬱陶しくまとわりつく両腕を乱暴に振りほどこうとするが?


「くっ、ぐっ……え、何っ!?」


 騎士の腕は離れず、それどころかさらに絞め上げる力を増す!


「こ、こいつ……なんで、まだこんな力……がっ!!」


 徐々に追い込まれていく状況に焦りを覚えた守人は、手にしていた槍で騎士の脇腹を苦し紛れに突き刺す!


「は、ははは……ザマァみろ……これで……え?」

「…………」


 しかし、刺された相手は痛がるどころかうめき声一つ洩らさない。


「そ、そんな……」


 信じがたい事態に驚嘆きょうたんしながらも、守人はもう一度、二度と続けて彼の脇腹を突き刺すも、騎士からはこれといった反応がない。


「あ、あああ………ああ!!」


 人智じんちを越えた恐怖に怯える守人は、もはやこの現状を逃れられない悪夢と捉えるしかなかった。


「あ、ああ……い、いやだ! は、離せ!離せ!離せぇぇぇーーーーーー!!」


 狂った様に叫び、何度も何度も槍を突き刺すが、騎士の手が首から離れることはなかった。


「どうして……どうして……どうして……」


 やがて繰り返す愚行を無駄だと悟った守人は、ついに観念してガクリとその場へ崩れ落ちる……いや、


「はぁ、はぁ、はぁ……あ、あれ?」


 地面にへたり込んで自分の首をさする守人は、急に騎士から解放されたことに困惑する。


「え、どうしていきなり……?」


 不思議に思い見上げると、そこには守人の首を掴んだままの形で硬直した騎士の姿があった。


「ま、まさか……」


 何かを確信する守人はおそるおそる観察。そして、判明はんめいする。


「死んでる……のか?」


 先程まで自分を苦しめていた強者が、既に亡くなっていたという事実に。


「一体いつから……いや、からなんて、もういいや……ハ、ハハハ……」


 唐突とうとつについた決着。それは守人自身が恐怖に敗北した末に、手にした皮肉な勝利として幕を閉じるのであった。

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