第11話 罠(守人の場合)

「しまった!」


 相手の地を這う氷魔法を跳んで躱すことには成功した……しかし、逆にその迂闊うかつさが“宙で身動き動き取れない”という致命的状況を生み出してしまい、案の定そこを狙われる羽目になる!


「くらえ!アイスアロー氷の矢!!」


 目前に迫る氷の矢が正確に私の眉間みけんを狙う……しかし!!


「ここだぁぁぁぁーーーー!!」


 私は軌道きどうを完璧に見極め、みずから頭を突き出す!


「なっ、自分から矢の的になるとは……自殺でもする気か!?」


 予想外の行動に動揺どうようされるが、もちろんそんな気は毛頭もうとうない!!


 突き出した頭……否! 突き出したのは頭ではなく、そこから生える立派な“つの”だ!


「であぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」


 甲高い音が響かせ、見事に角は矢を砕く!


「な、なんだと!?」


 人間の魔法使いにとってはあまりに予想外な防ぎ方に驚愕きょうがくされるが、すぐに次なる魔法の準備へ移行される……っが、幾分の焦りがあったか、魔力の集中がワンテンポ遅れて距離を詰められる隙を与えてしまう!!


「とったぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」

「し、しまっ! アイスあろ……」


 対応されそうになるも、距離のプレッシャーが機会をうばう。そして……!


「これで終わりよ!」


 槍の一撃により胴体を串刺しに……なる寸前、咄嗟に身を躱されて脇腹をかすめる程度の結果に。


「ちっ、運の良いヤツめ!」


 不愉快になるも、今の攻防で魔法使いが接近戦に弱いことを見抜く。


 そもそも魔法使いとは、魔法で戦う特性上どうしてもある程度の距離や間が必要になるために、接近されると極めて無防備な状況になりやすい。

 その証拠として、今のヤツが魔法を放てず攻撃を躱すのがやっとだったところを見るとつまりは……


「ヤツは懐に入られてからの攻撃手段がない!」


 そうなると俄然がぜん、この戦いは魔法のタイミングを掴みつつある私が有利というもの!


 一方、相手の魔法使いはそれを察したらしく、一旦仕切り直しするために距離を取ろうとして大きく後方へ跳ぶ…….さまを黙って見てやる程に私はのんびり屋ではない!

 着地点に足が着くか着かないかのをタイミングに合わせて最速のスピードで槍を突き出す……!?


「かかったな!剣の番人よ!!」


 刹那せつな、相手の掌にいつの間にか新しいが準備されていたことに気づく!!


「こ、これは……!!」


 どうやら“接近戦が弱い”と思わせたのは罠だったらしく、間抜けな私は無防備なままに相手の懐へ呼び込まれたのだ!!


「燃え盛れ! ファイヤーストーム炎の嵐!!」

「……まずい! 回避が間に合わなっ……!」


 目の前に広がる赤い景色が私の全身を容赦なく飲み込む!


「があぁぁぁぁぁーーーーっ!!」


 熱さと熱風のダメージは当然ひどく、ズタズタにされて地面に転がる!


「はぁ、はぁ……くそっ! 形勢逆転された挙げ句にこの様か!」


 満身創痍まんしんそうい窮地きゅうちに陥るなか、私は己の敗北を覚悟する。


 そう、覚悟していた……なのに魔法使いは!?


「潔く降伏こうふくしろ。そうすれば命まで取る気はない」


 勝利目前であるにも関わらず、まさかの降伏勧告を言い渡してきたのだった!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る