第12話 違和感(守人の場合)

「潔く降伏こうふくしろ。そうすれば命まで取る気はない」


 このまま止めを刺せば間違いなく勝負が決するというのに、魔法使いは何故か両手で握った杖を私の方へ突きつけたまま降伏を勧める。


「コイツ……ここまで追い詰めておいて何を考える?」


 不可解な行動には首を傾げたくなるが、直ぐ様に攻撃をされないというなら、遠慮なく体力の回復に努めさせてもらうだけだ。


 ――――数分後。魔法使いは変わらずに杖をこちらに突きつけたまま……


「どうした? 降伏すれば命は助けると言ってるんだぞ?」


 未だに一貫して同じことを繰り返す。ただ、これだけ続くと少なからずは違和感を感じるもので……あれ?


「確か、魔法って……試してみるか」


 不意に湧いた疑念。それは魔法使いが未だに攻撃をしてこない……いや、可能性について。そして、その可能性に気づいた私はある一つの賭けに出る。


「ハハハ……もしこれで死んだら、いい笑い者になるわね」


 下らない冗談を口にする私は武器である槍を地面に置くと、両腕を思い切り広げて無防備に己を晒す。すると、これを見ていた魔法使いは怪訝けげんそうに訊ねた。


「……何だその姿は? もしや、それが番人流の降伏の仕方なのか?」


 相手はこう言ってるが、無論そんなつもりはない。いや、それどころかこの行為で疑念が確信へと変わったので、今度は敢えてそれを言葉にして相手へ伝える。


「アナタ、魔力切れなんでしょ?」

「なっ、何を言うか貴様! で、でたらめを言って……混乱させようとしてもそうはいかんぞ!!」


 明らかに狼狽えてる様子を見ると、どうやら図星だったらしい。なのでここからは少し意地悪く会話を進める。


「でたらめなんかじゃないわよ。その証拠にアナタは執拗に降伏を勧めてるでしょ?」

「…………!!」

「もっとはっきり言ってあげましょうか? アナタが先程に私を殺そうとして放った必殺の魔法……アナタはあれを最後に魔力を枯渇こかつしている。

 よって魔力を回復するまで止めを刺せなくなったアナタは、苦肉の策……もしくはハッタリで押し通そうとして降伏を勧めていた。違う?」


 得意気に名推理を披露してやると、魔法使いは全てを見破られたとばかりに表情を青ざめた。


「はぁ~無様なものね。戦う手段を失くした魔法使いなんて」


 あまりの滑稽さに侮蔑ぶべつの言葉をかけて煽ってやると……


「く、くそっ……こうなったら、やるだけやってやる!!」


 万策尽きる魔法使いは、ついに破れかぶれの突撃をしかけて来る!


「やれやれ、この期に及んでただの特攻か……ホントに無様な真似をしてくれるわ」


 しかし、必死の形相で迫るもその動きは素人に毛が生えたレベルでしかなく、渾身の力で振り回される杖の一撃は十分な余裕を持って呆気なく躱される。


「ちっ、もう一度……!」


 残念ながら彼に“もう一度”はない。何故なら……


「終わりよ。間抜けな嘘つきさん!」


 既にその土手っ腹には私の槍が突き刺さっていたからだ!


「うわぁぁぁぁーーーー!!」


 情けない悲鳴と共に伝わる槍の感触。それはこの下らない茶番劇に、ようやく終止符が打たれたことを知らせる。

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