第7話 自然エリア(守人の場合)

『ま、まさか……人間ごときがまで持ち出してくるとは……』


 これは……?


『この理不尽なまでの屈辱くつじょく、決して忘れぬぞ……必ずや貴様を……』


 私の記憶……?


「――――ハッ!」


 目を覚ますと、私は広間で寝ていた。


「あれ……? 何で私は……夢……あっ!」


 起き抜けの一発目に問答無用で視界へ飛び込むのは、物言わぬ大猪のむくろだ。


「そうか……コイツと戦ってる時に紋章の力を使い過ぎて……」


 私は朧気おぼろけな記憶を辿りながら、ゆっくりと起き上がる。


「まぁいいわ。取り敢えずはせっかくの貴重な食材が手に入ったから早く処置をしないと……」


 ということで、さっそく大猪の骸を自慢の槍の先に紐で結びつけて背中に担ぎ上げ……というよりは引き摺る!


「お、重っ……! 見た目からある程度は覚悟してたけど……一体何百キロあるのよコレ!?」


 多大なる重力の反抗期に耐えつつ、私は“自然エリア”へ向かう。


「――――はぁ、はぁ、はぁ……さ、さすがにここまでの重量だとこたえるわね……」


 息も絶え絶えにやって来た場所は、六つあるエリアの一つである“自然エリア”。ここはその名に相応しく見渡す限りに往々と茂った緑が広がっており、また飲み水に使えるんだ水がせせらぐ川も多数散在している……っが、一つだけ奇妙なことがある。それはこのエリアの広さだ。

 はっきりと言ってしまえば広大……というよりも広大過ぎて広さの底が見えない! さらに言うと、この城の一画にしてはエリアの広さ……というよりかは質量が明らかに一致してない。

 まぁ、そもそも城自体がどうやって浮いたままになってるのかも謎なので、私的には“そういうものだ”として受け入れているのが現状だ。


 ただ今はそんな現状よりも重要なのは……


「ふぅ~重たかった!」


 私はエリアの入口に一番近い小川のほとりに運んできた大猪をゆっくりと地面へ転がす。


「さて、やりますか!」


 持っていた槍から外した穂先ほさきをナイフ代わりにして、さっそく解体作業を開始する。


「まったく、これだけ大きいと何をやるにも一苦労だわ」


 文句を垂れつつも作業は滞りなく進めていくと次は……


 槍を元に戻して今度はスコップ代わりに使って、適当な深さにまで穴を掘る。それから前以て集めていた木の枝や葉っぱを細かく砕いて底に敷き詰め終えると、常備してる火打ち石で点火!


「よし、着火したわ!」


 しばらくすると煙がモクモクと立ち上がってくるので、そうなる前に手早く木の枝に吊るした肉を穴の淵に橋渡しにして幾つかひっかける。


「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……も、もう、煙が……目に……」


 大量の煙を相手に悪戦苦闘あくせんくとうを繰り返した後は、穴の口を木の枝や大きめの葉っぱでふたをして密封!


「ゴホッ……あ、あとはこのままいぶし続ければ、美味しい燻製肉ジャーキが完成ね」


 おそらくこの火加減だと一時間くらいかかる。なのでそれまでの時間をどう過ごすそうかと考えていたらふと自分の体臭が気になった。


「くんくん……うっ! さすがにあれだけ動き回ったら汗臭いな」


 この状況……常識的な衛生観念を持つ者としては良しとはできない。なのでここは……


「久しぶりに水浴びでもやるか。おあつらえ向きに目の前には川もあることだし」


 そう決めた私は、身につけていたものを全て脱ぎ捨てて真っ裸になるのであった。

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