第6話 紋章の力(守人の場合)

 剣の広間では、私と大猪による激しい戦いが続いていた!


「だあぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」


 両手の甲から手首にかけて浮かぶ炎を模した紋章。それがもたらす力により、私の気分を大いに高揚させる!


「さぁ、いくわよ!」


 両のこぶしを握ると同時、己の何倍もあろうかという相手に向かって正面から踏み込む!


「があああぁぁぁぁぁーーー!!」


 全獣共通の弱点である眉間みけんに狙いを定め、骨が砕けんばかりの力でシンプルに殴りつける!


 ゴァァァァァアガンーーーー!!


 大きな鉄の塊が高所から落ちたような音が響くと共に割れた額からは、ワンテンポ遅れて鮮血が噴き出す!


「グロロロ…………」


 ただ当の大猪はそんな傷に微動だにせず、自分の顔にかかった血をベロベロと舐め回すだけ。


「へぇ、獣のくせにきもが据わってるわ」


 その言葉を自ら証明する大猪は、闘志とうし満々で後ろ足をガシガシと蹴って……


「来るっ!!」


 物凄いスピードで突進し、持ち前の太く鋭い二本の牙で私の胴体を貫こうとする!


「甘い!」


 しかし、相手の思惑おもわくをいち早く察知していた私は、すかさずその内な一本を受け止めて動きを封じた! 


「グゴゴゴゴゴ…………!!」

「ぎぎぎぎぎぎ…………!!」


 またもやになる力比べだが、今回は前と違って互いの力が拮抗きっこう……いや、紋章の力が加勢してる分こちらが優勢!!


「グォォォォ……」


 徐々に力負けする大猪は牙を振って離れたいとするが、そのすきを突く私は受け止めていた牙を右脇に抱えて押さえ込む!


「ブヒッ!?」


 さらにそこからの原理で体重をかけて思い切り反り返って……


「ぬぅぅぅぅぅぅーーーん!!」


 豪快ごうかいにへし折る!!


「グガガガモモモモォォォォォーーー!!」


 木霊こだまする悲鳴! 大猪は狂った様にその巨体を地面に転がして悶えまくる!!


「アハハハ!もがけ、もがけ! このまま残りの一本もへし折って……ぐっ!」


 ま、まずい、頭が……揺れる……! 使


 突き刺す頭痛に苦しむが、気力で何とか持ちこたえる。


「くっ……こ、これは……決着を……急がないと……」


 自ら頬を叩いてかつを入れると、再び大猪を見据える!


「ブフォフォフォオオオ……」

「笑ってる? 私が弱味を見せたから?」


 畜生風情ふぜいに生意気な真似をされて腹は立つが、実際に余裕がないのは確かなので……


「くおぉぉぉぉぉーーーー!!」


 気合いを入れ直してさらに魔力を集中。すると手首まであった紋章は肘辺りにまで駆け昇り、より一層に力が向上する!


「いくぞ!!」


 言葉を吐き出す同時、弾かれた矢の勢いで大猪の頭上へ高く跳び上がると、渾身の力で右拳を振り下ろしにかかる!


「くたばれぇぇぇーーーー!!」


 一方、対抗する大猪は残った牙を小刻みに揺らして落ちてくる私とのタイミングを合わせる!


「うおぉぉぉぉぉーーーー!!」

「ブグオオオオオーーーー!!」


 雷の如き一撃と天を貫かんとする鋭き一撃が激突する!!


 …………メリャ!!


 結果、私の拳は大猪の牙を見事に掻い潜り、割れていた眉間へ深くめり込んだ!


「ブモモモッッッーーーー!!!」


 最期の見せ場とばかりにき叫ぶ大猪。その悲しき咆哮ほおこうは死闘の決着を意味していた。


「ハハハ……ずいぶんとがんばったみたいだけど、結局は……無様に終わったわね……」


毒を吐いた直後だった。


「あぐぅ!」


 私の視界は赤とも黒ともいえない色に染まり、ついには意識までもが――――

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