第8話 休息(守人の場合)

 ただ汚れた身体を洗うためにやむを得なく始めた水浴びだったが、なかなかどうして?

冷たい水の感触は意外にも心地が好く、日頃の疲れをやさしく洗い流してくれるようだった。


「フフフ……不思議なものね。ただ裸になって水と戯れるだけでこんなにも癒されるなんて.」


 ゆったりとした安堵感に包まれ、次はのんびり肩まで水面に浸かって半身浴へ切り替える。


「う~極楽極楽と……」


 手足を伸ばして至福の時間を満喫まんきつしていたら、不意に自分の両腕が視界に映る。


「……今回、ずいぶんと紋章の力を多用し過ぎた気がするわね」


 私は大猪との激しい戦いの内容を反省をすると共に、そこで自身にもたらされた弊害へいがいについても思い悩む。


「あの力は肉体と精神に多大なる負担がかかる。だから、今後はもっと……今後? またあの力を使うつもりなのか私は?」


 不吉な未来に一抹の不安を覚えるが、残念ながら現状でそれを払拭するだけのすべを持ち合わせてない。よってこのまま悩み続けても無駄だと判断した私は?


「……難しいことを考えても仕方ないわ。とにかく、今はこの時間を純粋に楽しむだけよ!」


 おもむろに立ち上がって辺りを見回す。すると川のすぐ側には五、六メートルくらいの小高い岩場がせり立っているのが視界に入った。


「へぇ、けっこう面白そうなものがあるじゃない♪」


 見つけた岩場は颯爽さっそうと駆け上がるとそこから……


「とぅ!」


 誰が見てる訳でもないのに、空中で見事な一回転を決めて頭から川へ飛び込む!


「プハッ! やっぱり悩んでる時はこれに限るわ!」


 何も考えないままに行う単純な行為だが、それだけにストレスを解消するには持ってこいの方法だ。


 その後、私が数回程度同じをことを繰り返してひとしきりの時間を楽しんだ頃。どこから香ばしい匂いが……


「あっ、燻製!」


 服を着ることもなく急いで先程の場所にまで戻る。すると辺りには「ちょうどいい塩梅あんばいに燻されてるぞ」といいわんばかりの香りが漂っていた。


「へぇ、どうやらいい時間だったみたいね」


 穴を崩さない様にゆっくり葉っぱと木の枝で作った蓋を退かせば、中に貯まっていた蒸気と煙が一気に外へ噴き出す!


「ゴホッ! ゴホッゴホッ……!」


 大量の煙と悪戦苦闘しつつ出来上がったものを確認すると、そこには美しい飴色に変わった猪肉ししにくの燻製があった!


「ふぁ~!美味しそうにできあがってるわね!」


 あまりの魅力的な見た目に、思わず一口つまむ……


「ふぁ、ふぁふぁ……あふあふ熱々……でも、おいひい美味しい!」


 まさに“大満足”といえる会心の仕上がりに身体中の細胞が歓喜してるようだった。


「フフフ……これで今後の楽しみが一つ増えたというものね」


 そんな喜ばしい結果に諸手を挙げいると突然……


「……この感じ!? また・・なの!?」


 城へ侵入した何者かの気配を感じ取る!


「まったく、何もこんな時にやって来なくても……」


 私は不満を愚痴ぐちりたくなるも、己の役目を果たすために仕方なく剣の広間へ駆けつけるのであった!


 無論、全ての装備を身に付けた上でだが……

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