第3話 バルコニー(守人の場合)

 何も語らない、何も答えない……そんな物言わぬ亡骸なきがらを眺めても仕方ない私は、次なる行動へ移る。


「さて……と、さっさとこの散らかった亡骸ゴミを処分しないとね」


 転がるゴミの片足を無造作むぞうさに掴み上げると、そのままズルズルと引きずって広間にある扉の一つへ向かう。


 錆びた音と共に開かれる扉の向こうは、広間と同じ大理石でできた長い通路が続き、私はゴミを引きずりながらゆっくりと進む。


「そういえば、今日の天気はどうだったのかな?」


 唐突とうとつにそんなことが気になったのには理由がある。それはこの先にあるエリアが……なんて考えている内には、いつの間にか通路の突き当たりにある扉の前に到着していた。


「よっと……」


 空いている方の手を使って扉を押開くと、全身に激しく当たる強風によって出迎えられた。



「今日は少し風が荒いか?」


 訪れた場所は、さく手摺てすりもない六角形状のバルコニー。

 安全面には多少の難はあるものの、スペース的には中央にある大広間の半分くらいはある。

 またバルコニーとするだけあって、ここから一望いちぼうする空の景色は日々の鬱憤うっぷんを少しだけ晴らしてくれると同時に、自身が立っている場所が空に浮かんでいることを実感させる。


「そういえばこの城って、私がやって来たよりもはるか昔から浮かんでいたはずだから、かれこれ…………いや、数えるのはやめておこう。頭が痛くなりそうだ」


 無駄なことはやめ、さっそく本来の目的を果たすための行動を開始。


「悪いわね、待たせちゃって……」


 片足を掴んだままになっている亡骸へ詫びると、そのままバルコニーの端にまで移動して眼下を見下ろす。


「あとは、ここから放り投げればおしまいか」


 私は今生こんじょうの別れとなる男の亡骸をチラリと見る。


「これで正真正銘のお別れになるけど、私を恨んだりしないでよ。こうなった原因は、あなたのどうしようもない弱さにあったんだから……」


 哀れむようにそう言ってやると、片足を掴んでいた腕に力を込める!


「じゃあね……名前も知らない可哀想な人間さん!」


 そして、適当な別れの言葉をかけた後は本当にゴミでも捨てるかみたいに亡骸をバルコニーから放り投げた。


「よし、これにて完了!」


 天空城ここから落ちていくあの男が、どこにどう落ちるか知るよしでもない。ただ出来ることなら、その無様な姿を誰に晒すことなく、ひっそりと朽ち果てて欲しいものだ。


「まぁ、やった本人がそう思うのはおかしな話だけど」


 そんなふうに想いふけって一仕事を終えた私は、ふと空を見上げる。


「……うん、今日も悪くない空だ」


 いつもと変わらない青い景色。これに満足するした私は、吹き荒れる風から背中を強く押されてバルコニーから立ち去るのであった。

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