第35話 嘘つき女とその末路
ある朝、夫・精六さんが言った。
「増えたよな。ぜったい」
・・・・あー、
あ、それとも体重?うふふ、やだもー、それは言いっこなしでしょ・・
「・・・その反応・・・
わかってるな?自覚はあるんやな?」
(・・・・・・石、ね。)
これ以上は買いません(=増やしません)と約束してから一年。
「そりゃ気づくよね」レベルで増えた。
寝室には黒板消しサイズのギラギラしたアメジストと野球ボールサイズの
ドリームアメジストが飾られ、今までそこにあった小さめのアメジストドームは
リビングの棚に2個鎮座している。私の夫の目は節穴ではないのだ。
「種類は(そんなに)増えてないんだよ」と言い訳しようと思ったが、
精六さんにとっては質ではなくこの量が問題なのだと推察する。
なにしろ、妻(わたし)が平然と嘘をついたことが問題なのだ。
リビングの一角には身に着けたり持ち歩くための石が、結婚祝いでいただいた
白いパスタ皿にたっぷり盛り付けられている。
私が毎朝そこから数点選んでポーチに入れる様を精六さんも見ていて
たまに「幸せか?」と訊いてくるので間髪入れずに「うん」と答えると
「ほな、ええわ」と言ってくる。
石を持ち歩く妻を「俺の妻は“変な人”じゃない」と思い込みたいのだろうが
残念ながら、妻は“まぁまぁ変な人”である。
数珠やペンダントではなく、原石で収集している時点で十分「石オタク」なのだ。
厄除、除障、浄化と聞くと、ときめいてしまうのだからしょうがない。
例えば天眼石という、目玉のような文様が入った
さきに黒の天眼石を購入してから赤の天眼石の存在を知った。
「黒は死者からの怨念、赤は生きている人間からの怨念をはね返す」
と書いてあり、死者より生きている人間のほうが断然怖いので赤天眼石を
追加購入ぽちっとな・・・といった調子で増えていったのだ。
これもたぶん読んでくれるであろうから書くが、友人・さくら青嵐さんの
『隣国から来た嫁が可愛すぎてどうしよう』に登場するシトエンは
「紫水晶のような瞳」なのだが、アンミカ風に言えば
「紫水晶って200色あんねん」なのだ。知らんけど。
彼女の作品を読みながら、我が家にある紫水晶(アメジスト)を何点か
横目で眺めていた。どれがシトエンの瞳だろうかと。挿絵も含めてコレかなと
思うものがあるが、私の持っているものはかなり虹が入っているため、そんな
瞳だったらサリュ王子から嫁入り初日で眼科受診を薦められたに違いない。
茶化すつもりはない。「のような」である。その美しさが想像できて素晴らしい。
ちなみに、シトエンの胸元には竜紋があるのだが、私の持つモルダバイトという
石にも竜紋がある。持ち歩くとものすごく頭痛(モルダバイトフラッシュ)を
起こすためリビングに飾ったままだ。
シトエンという名も黄水晶・シトリンと一字違い。
アメジスト(紫水晶)に熱を加えるとシトリン(黄水晶)になる。
ふたつの途中の状態をアメトリンといい、とても可愛らしい見た目だ。
さきほど「石オタク」と書いたが、調べれば調べるほど石の世界が面白く
最近では産地の勉強までするようになってしまった。すぐ忘れるけど。
ならば資格を取得してみようと思ってこれまたネットで調べると、一応、ある。
一応というのは、どうも講習を受けるだけっぽいので悩むところではあるのだが
たぶん近いうちに資料請求くらいはしそうである。
話は最初に戻るが「増えたよな?」と訊かれてふいに「増えてない」と答えて
しまった私。明らかに増えているのにこの期に及んでまだ嘘をつく妻に
精六さんは言った。
「壺はあかんぞ」
優しすぎる夫のために、今後どんなに素敵な壺に出合っても買わないと誓う。
いまのところそれだけは誓える。
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