第33話 こわいはなし2

 第31話は 「そっち系の怖い話」で肩透かしを食らわせてしまったので

「こっち系」も書いてみる。


 私の実家の近所に、一軒の空き家がある。

私はその家が建った時のことも、そこに引っ越して来られたMさんご家族のことも

よく憶えている。いまから30年くらい前の事である。

新興住宅地だったそこには、よく似た造りの洋風な家が数軒並び建ち、青い瓦屋根の

ザ・昭和な我が家が古臭く見えてイヤだった、そんな当時の感情まで思い出す。


近所で誰かとすれ違えば顔も名前も知らなくても挨拶をする、「右から2軒目の〇〇さんのご主人は高級ホテルにお勤めで奥さんはヘルパーさんでおうちには90を超えた寝たきりのおばあさんがいる」、会ったことも無い〇〇さんのプライバシーを

知っている、そんな「田舎あるある」な町。


件のMさんが「離婚したらしい」と聞いたのは彼らが引っ越して来て二年も経って

いない頃だった。奥さんが子どもを連れて出て行ったらしい、ご主人は寝耳に水の

状態で呆然としているらしい、どこまでホントの話なんだか、頼みもしないのに

いろんな人が「知り合いの知り合いから聞いた噂」を教えてくれる。

その当時は私も若く、ご近所スキャンダルなど何の興味も無かったのだが

カーテンがちょっとヨレたままだとか、ポストがちょっとだけ半開きのままだとか

生活感を残したまま明かりのついていない家の前を通るたびに、この家はいずれ

売りに出されるんだろうなぁ、次はどんな人が住むのかなぁ、と漠然と考えていた。


しかし私の予想に反して売りに出されることはなく、その生活感が残ったまんま

数年が経過した。そしてある年の台風で窓がヒビ割れ、玄関ドアの蝶番が外れて少しだけ隙間が出来た。売りに出されていないということは、Mさんはローンを払い続けていらっしゃるのだろうか、ドアが外れたり窓が割れているのはご存じなのだろうか、あの隙間から野良猫や鳥・・・ならまだいい。通りすがりのワルイ人が家に入り込んだりしてしまわないだろうか、他人事ながら心配をしていた。


それからさらに数年が経過し、ドアは開いたまま窓はヒビが入ったまま、たまに駐車スペースに見知らぬ車が停まっているが、きっと近所の誰かが空き家だからと使っているのだろう。

月並みな言い方になるが「まるでそこだけ時が止まっているかのような廃家」

「いかにもなにかデそうな家」それがMさんちであった。


事態が大きく動いたのは、30年の時を超えた、先週の事である。


実家のポストに回覧板が入っていたので、家の玄関のドアを開けながらバインダーファイルをひらいた瞬間、私は足を止めた。


「今期の4組組長はMさんです」


便宜上Mさんとしているが実際はMではなく、あまりお目にかかれない苗字である。

こんな田舎で、ましてこの町内(4組)で同姓であることはまず無いだろう。



Mさん、戻ってきたんだ。


そう思った。


しかし、私は気づいてしまった。


気づいてから数分、暑さが嘘のように引いた。







まさか、


ずっと、住んで、いたの・・・・・・か?







どうして今までそれに気づかなかったのだろう。

「時が止まったかのよう」ではあったが、時が進んでいたならばポストにサビも付くだろう、なにより玄関先の垣根が伸びず、枯れずなんていうことはないわけで。

そういえば、人の通り道に雑草が生えてない。

駐車スペースの車は、Mさん本人のもの・・・?


気づいてしまうと不思議なもので、その日のうちにMさんに遭った。

しかも蝶番が外れた「あの扉」から出てこられてきたところに出くわした。

鍵は生きているとみえて、施錠されている。

「こんにちは」。背中に声をかけてみた。

こんな人だったっけ。いやいや、まともに挨拶したのは「今」が初めてだ。

Mさんも「どこのどなたかは存じませんが」風にコンニチワと返してくれた。


そっち系でもあっち系でもない「勝手に怖がってた話」。

タイトルを付けるのが、苦手だ。

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