第27話 あんないもん

 精六さんの母、つまり私にとってはお姑さん(義母)には、不思議な口癖がある。

「旅先やスーパーで買ってきたものを私にお裾分けしてくれる」というシチュエー

ションでその言葉は出てくる。


「これ、あんなかったし、あげる」。


「あんない」は、おそらく方言だ。


精六さんもたまに使う。

「メロンパンは中身スカスカで,あんない」といった具合に。


だからたぶん「味がしない」がキュッと短縮されて「あんない」になったのではないかと想像する。


ざっくり言えば「おいしくない」という意味だが、義母はおそらく「私の口には合わなかった」というニュアンスで使っているものと思われる。

味が濃いものに対しても使う時があるからだ。


「これ、美味しかったからお裾分け」ではなく

「これ、マズかったしあげるわ」なんて、血を血で洗う嫁姑戦争勃発でしかないが、

けっして義母は私に喧嘩を売ってるわけではなく

「(だから、お礼なんかいらないし遠慮なくどうぞどうぞ)」とか

「(だから、そちらもお口に合わなければテキトーに処分してくれていいからね)」

とかそういう優しさが「あんない」に含有されているのであろう、


と思うようにしている。


私の解釈であながち間違えてはいないとは思うのだが、ただ5回に1回くらい、

申し訳なさそうに「あんないし、もらってくれへん?」と言われるときもある。

時折「まじめに、あんない」パターンもあるので要注意だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る