第6話 知人6年・友人60分・恋人6か月ー⑤ー

 私が20代だった頃、友人から不名誉なあだ名を付けられたことがある。


それは    ダメ製造機     だ。


さらに歳を重ね、30代に職場でついたキャッチフレーズは


変人ホイホイ   というものだった。


男を見る目の無さは恋が終わるたびに痛感していたが、変人が花束を抱えて

こちらに駆けてくるのだから、そこに私の非は無いと思いたい。


いまの時代「変人」という言葉はよろしくないのかもしれないが

つまりは「いっぷう変わった人」「できることなら好かれたくない系の人」という

意味で、差し障りない程度にご紹介すると

とにかくずっとしゃべっている人、とか、とにかくずっと怒っている人、とか、目の前の虫を払うかのような動きをしながら、こんな青い世界であなたはどうして普通に過ごせているんですか?!と道で急に凄まれたり、とか。

私は薬局の事務員なのだが、処方箋と一緒に「あなたを抱きたい」というラブレターを毎回持参する90歳オーバーの男性も記憶に新しいところだ。


かといって自分で選ぶと、浮気性であったり、金銭感覚が異常にルーズであったり、自分で自分のご機嫌を取れない男であったり。

「最初から、そう」だったのかもしれないが、へとへとになって別れるパターンばかりで、月並みな言い方をすれば「男はもうこりごり」な境地だった。


そこに、精六さんの登場だ。


彼はお付き合いして2か月後には二人で住むための物件情報チラシを見せてきた。

私の母はちょっと病的なほどの心配性で、39歳の時点でも私の門限は22時だった。

結婚した今も、日に一度の連絡を入れないとパニックを起こすこともある人なのだ。


なので「同棲なんて、結婚でもしない限り無理だよ」と言ったら

「そうか、じゃあ、結婚しよう」と軽いタッチで返してきた。


ちょい待て。好きになれるかどうかわからないから付き合うんではなかったのか。

そもそも、いまの流れでは私が結婚を促してプロポーズを引き出したみたいじゃないか。片膝をついて小箱パカッが理想ではあるが、そこはあきらめよう。二人してガラじゃない。

そしてプロポーズのやり直しをお願いしてから1か月後、ドライブ帰りに見晴らしの良い高台でプロポーズをされ、私たちは「婚約者」ステージに進んだ。


それにしても。

結婚というのは自分の人生にまったく必要ないと思って生きてきた。

こう言うと負け惜しみのように聞こえるかもしれないが、結婚してくれと言わなさそうな男をあえて選んでいた気もする。

物心ついたときには両親は救いようがないくらいの不仲で、毎晩言い争う声が怖くて耳を塞いで泣いていた。小学校6年間は入れ替わり立ち替わりいじめられ、ランドセルのふたの裏側は何者かによってバツに切られていたし、名指しでしねと書かれ、言われ、筆跡がわからぬように筆で書かれた脅迫状を上履きに入れられ、最終的にはクラス全員から総無視というのも経験した。積もり積もって、死のうかなと包丁で腹を刺したら想像していた以上に刃先が痛くて断念しているところを兄にみつかり、いじめは学校の知るところになった。そのときはもう1か月後が卒業式という頃だった。


急にヘビーなことを書いてしまったが、私たちに子がいないのは私の過去が大いに

影響している。さっき書いたようなことをプロポーズ・テイク2の前に話して、

精六さんが困った顔をするようならプロポーズを断ろうと思っていた。

しかし、彼は私の暗黒時代の話に眉をひそめはしたが、ソレと俺たちの結婚に

なんの関係があるのかとキョトンとしていた。

精六さんのそのキョトン顔に、いまでも救われるときがある。彼にとって大したことない問題は、私にとっても大したことない、ような気にさせてくれる。


ちなみに彼が私のことを「好きだ」と言ったのは結婚後、しばらくしてからのこと。


周りの評価は知らないが、精六さんはダメ男ではない。変人でもない。たぶん。

お酒を飲み過ぎてダメっぷりを炸裂させたことはあったが、どうせ憶えていない

だろうとこっちも寝ている彼を盛大に罵倒したのでおあいこだ。


彼が私との結婚生活で唯一提示してきた“条件”は

「冷やっこには、チューブではなく、必ず擦った土生姜をのせてくれ」

というものだった。これはいまでもズルすることなく守っている。


これにて、なれそめ編は終わり。

タイトルにはしてみたが、今後は精六さんの話ばかりではない内容になる予定。

今日は貴重な一日休みなので、もう一本下書きに着手する。

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