2023年5月 京都、嵐山・清水寺

 今年の5月、私の友達三嶋悠希と京都をちょこっと旅した。北西にある嵐山あらしやまと、東にある清水寺という京都の両端の観光だ。まずは嵐電らんでんこと京福電鉄けいふくでんてつに乗ったのだが、これが路面電車であるというところがまた素晴らしい。京都の古い町並みに路面電車という組み合わせは、いかにもレトロでとてもよく似合う。北野白梅町きたのはくばいちょう電停から乗り込み、建ち並ぶ家々の裏側をかすめ、狭い駅で大勢の外国人ツアー客を詰め込み、のんびりと走ってゆく。嵐電が好きになった。途中帷子ノ辻かたびらのつじ西院さいから来た嵐山行きに乗り換え、目的地へと向かう。

 終点嵐山電停を出ると、観光客が大勢。電停を出てすぐの店で二人揃って抹茶アイスを買って、インスタガールみたく写真を撮ってアップロードする。男二人だとしても、そのようなことをしたことのない私は楽しかった。アイスを片手に渡月橋とげつきょうに向かっていると、外国人らしき観光客に「ばんぶふぉれすと」への道を聞かれた。少し考えた後でそれは「バンブフォレスト」に変わり、”BambooForest”に変わって、私は”Sorry, I don't know."と答えるしかなかった。だがおかげで思い出せたのだ、嵐山に美しい竹林があったことに!そのことを私はなにかのパンフレットで見たことがあった。私は悠希にそのことを話し、二人で地図を調べて、そこに行ってみることにした。

 渡月橋の掛かる桂川かつらがわ沿いを上流に向けて歩いてゆき、川の上を小舟で行き交う人々をみて、森の手前で右に曲がれば小さな坂。その坂を登り、歩いてゆくとそこにはあった、きちんと背丈を並べた綺麗な竹林が。大勢の観光客がいたせいで歩くのは大変だったが、私たちはここでもまたインスタガールをした。人がもう少し少なければ神秘的な空間だっただろうが、「竹」漏れ日の降り注ぐ美しい天蓋てんがいの下で砂利道を歩いているだけで十分だった。緩やかな坂を登って下り、トロッコ嵐山駅に出る。駅の前でラムネを買い、またまたインスタガールをやった。あまり冷えてはいなかったが、竹林とラムネという雰囲気だけはよかった。ラムネを飲み終わって、トロッコ嵯峨さが駅までトロッコに乗って行こうとしたが、満席で乗れなかったので、阪急はんきゅう嵐山駅まで歩くことにした。歩いていく途中、渡月橋の上で写真を撮ったり「女の子というもの」について話をしたり、とにかく幸せな時間だった。阪急嵐山駅の近くで美味しそうな蕎麦屋に入ってお昼ご飯を食べた。天ぷらがサクサクでおいしかった。田舎蕎麦というものをそこで初めて食べたが、香りが素晴らしい。路面電車。綺麗な竹林。美味しい蕎麦。乗ったもの、見たもの食べたもの、すべてが嵐山観光にぴったりで完璧だ。

 阪急嵐山から桂へ、桂から河原町かわらまちまで、阪急電車で移動した。桂で乗り換えるときの悠希のひとことを、私は忘れないぞ。「JRと私鉄って何が違うん?」って。彼、18歳だよな?河原町までそのことについて説明してあげて、終点で降りた。

 名古屋駅太閤通たいこうどおり口ほどではないけれど、京都河原町駅前はカオスだった。所せましと店が建ち並んだ商店街は人でごった返していて、バス乗り場の場所が分からなかった。私は日本各地のこういうカオスな町が大好きだ、いかにもアジアらしくて。私の故郷名古屋には大須もあるし、下宿先の京都では蛸薬師たこやくしにも行った。こういう町に行くと、ものすごい人だかりと凄まじいエネルギーが溢れていて圧倒されるものだ。整然とした生真面目な町に行くよりもこっちの方がいいのだ、ときどき心に虚無を感じてどうしようもなく寂しくなってしまう私にとっては。

 私たちはなんとか清水道きよみずみちまでのバスに乗った。清水道から細い参拝道を歩き、両側に建ち並ぶ店の数と人の多さに圧倒されながら、清水寺を目指した。私たちはその日、変わった二人組であっただろうけれど、カオスに紛れていれば目立つこともなく、とても居心地が良かった。清水寺の赤い門を映した写真を悠希に見せると「写真撮るのうまくない?」と言われて嬉しかった。前にも誰かにそう言われたことがある。確かに写真を撮るのが上手かもしれない。私には私自身の知らない様々な才能が色々あるのかしら。800円の参拝料を支払って、清水の舞台から春の青い山々を眺め、京都の街並みを遠くに望み、この旅最後のインスタガールをやった。

 帰り道に買ったアイスクリームサンドを食べながら参拝道を下り、交通機関に乗り慣れていないという悠希が京都駅行きのバスに乗るのを見届け、家路についた。またいい旅を一つ重ねられたと感じた。

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