第2話 佐藤くん情報
アヤは、食後のアイスコーヒーを一口飲み、
ストローで氷を回しながら少しかしこまったように、めぐみに聞いた。
「ねぇ、、中山君、知っている?ガソリンスタンドで働いている男なんだけど、、、ラッキーストライクを買うかな、、週に3回程度しか来店しないから、、」
めぐみは、斜め上に視線を向けて考えて、うる覚えな記憶を繋ぎ答えた。
「あぁ!!ラッキーストライクね、、、なんとなくわかる!その中山君?が、どうしたの、、、、えっ?まさか、アヤは中山君が好きってこと?!」
めぐみは、うる覚えな記憶を繋ぎながら、妄想した。
そして、妙にテンション高くなった。
アヤの頬は少し赤く染まり口元を緩みながら、くねくねと体を動かした。
「えー?好きって言うかさぁ、、、なんて言うのかなぁ、、、」
分かりやすいアヤの態度は、完全に図星で、めぐみはアヤを冷やかすように、体を少し前のめりにして聞いた。
「なによ!言っちゃいなよー!アヤもガソリンスタンドのスタッフに恋したのかぁ、、、あのガソリンスタンド、カッコ良い人がやたら多いもんねー??」
めぐみとアヤは、久しぶりに学生時代に戻ったように恋話で盛り上がっていたが、アヤが話を進めるほど、めぐみの想像を大きく変えた。
めぐみは、アヤの言葉を聞きかえした。
「えっ?今、なんて言った??」
アヤは、相変わらずニヤニヤが止まらない。
「だから~ 中山から告白されちゃってぇ、、 付き合ってるのぉ!」
めぐみの表情は、面白いほど真顔に戻り、先までのテンションの高さが嘘のように落ち着いていた。
「えっ?そうなんだ、、、付き合っているんだ?」
アヤは幸せのど真ん中にいる。
恋をしている顔。
それを物語るようにアヤは中山のなれそめを綻んだ表情で話はじめた。
「私は、そんなに興味がなかったんだけどねー、、中山が私の仕事終わりに声かけてきて、、、で、ちょっと飲みに行ったら、、、帰り道、なんか告白?されて、、、まぁ、彼氏いなし、付き合ってもいいかなって、、、」
普段はクールなアヤだが中山の話をしているときは完全に乙女になっていた。
めぐみは、「そう、、告白されたんだ!」
100%良かったね!と思えない心境は、くだらない女のプライド。
めぐみは、アヤの幸せに満ちた恋話を聞いて、わずかな嫉妬心を抱いた。
めぐみは、中山という男など今の今まで眼中にないし、アヤから名前を聞かされるまで記憶に残らないような男だ。めぐみが中山に告白をして振られたわけでもない。
それでも、何とも言葉に表せにくい屈辱感。
アヤより、めぐみは半年前にフレッシュマートに勤務している。当然、中山とも半年前から顔を合わせていた。それでも、結局、フレッシュマートに勤めはじめて約1ヶ月足らずのアヤが中山から告白されて付き合っている。
嫉妬心や屈辱感を抱くなんて、とてもナンセンスでくだらないことだと、めぐみは思っている。
だが、めぐみは魅力がないと三行半を捺されたような感覚だった。
勤務して1ヶ月足らずで告白されて幸せな恋もいれば、勤務して半年間、愛想なし態度は変わらない。赤の他人この上ない恋・・・・。
めぐみは、アヤと比べずにはいられなかった。告白もしてない相手、好きでもない相手から一方的に振られたような感覚。だが、アヤが中山と付き合うこととなり、めぐみにとっては良い方向へ進むこととなった。
アヤは中山に佐藤くんについて色々と聞いてくれた。
それと同時にろくに会話をしたこがない中山にまで、めぐみが佐藤くんに片思いをしていることが知れてしまった。
めぐみにとっては中山に片思いを知られることよりも、佐藤くんの情報が手に入ることが大事。
アヤは目を輝かせて中山が教えてくれた佐藤くん情報を思わせ振り話はじめた。
「ねぇ、佐藤くん情報、聞きたい?」
めぐみは目をらんらんと輝かせて大きく顔を縦に動かした。
「佐藤くん、下の名前は拓哉って言うんだって!あとね、27歳、O型で獅子座!ガソリンスタンドの社員。なんと店長代理!」
めぐみの興奮は最高値!アヤが話した佐藤情報にキャー!と感情をおさえられずに身を乗り出して聞いては、両手の平を組ながら幸せを実感していた。
「佐藤拓哉って言うのー?もう、めちゃくちゃ佐藤くんにピッタリ過ぎる名前~!!カッコ良すぎでしょー!O型って、わたしと同じ!」
めぐみはアヤが教えてくれた佐藤情報に上機嫌だった。
数分前までアヤと中山が付き合った事実に、くだらない女のプライドでショックや嫉妬心を抱いていたものの、半年以上も名字しか知らなかった佐藤くんとの距離が一方的だが近づいた気がした。
とは言え、めぐみと佐藤くんとの距離感は現実的、変わることはない。
ただ佐藤くんが来店し、雑誌コーナーで立読みをする後ろ姿を見つめては、心の中で「拓哉って言うのかぁ、、、店長代理なのかぁ、、、」と妄想してて少しばかり浮かれていた。人伝えと言えど、佐藤くんを知ると欲望は生まれるものだ。
アヤと中山のように佐藤くんと会話をしたいと願うようになって行く。
アヤは、中山から佐藤くんの情報をよく聞いてくれる。とは言え、佐藤くんの愛想なしは職場でも変わらない。
スタッフの中で最も話かけにくいオーラを持っていると中山は話していた。
佐藤くんはオートルーム内で1人で淡々と車の整備専門にしている。
給油や洗車など接客は中山など一般的なスタッフ。
同じ職場と言え佐藤くんと直接会話する機会は少ない。
休憩時間も仲間と一緒にワイワイくだらない話で盛り上がることもないし、スタッフが休憩を終えてから、佐藤くんは一番最後に休憩をとる。
だから毎回15時にフレッシュマートに来店することにも納得ができる。
中山も佐藤くんの情報を色々と聞きたいところだが中山でさえ佐藤くんに直接話かけにくい。
そこで長年勤めている佐藤くんと動機で話しかけやすい社員の山根という男に佐藤くんの情報を聞いていた。
山根は佐藤くんとほぼ動機だけあり年齢も近いこともあり、愛想なしの佐藤くんともわりと普通に会話できる関係性だった。
だが、やたらに中山が佐藤について質問されることで山根に冗談半分「佐藤のことが好きなのか?」と、ひやかされる始末。中山もアヤの友達であり、めぐみの片思いをどうにか成就させたいし、出来るだけ力になりたいと思っているが片思いの相手が愛想なしの佐藤くんとなると、さすがに「佐藤さんか、、、他のスタッフにすればいいのに、、、」と苦笑いを浮かべていた。
第三者から見ても前途多難の恋愛と思えた。
もともとガソリンスタンドの経営者のオーナーは都内にガソリンスタンドを数店舗と中古車ショップを運営している 50代の男である。
佐藤くんは経営的なことを任されている店長代理、オーナーが顔を見せに来るのは、月に1から2回程度。
オーナーと佐藤くんの関係性は遠い親戚にあたると山根は教えてくれた。
佐藤くんの愛想なしは今に始まったことでもないし、そもそも佐藤くんは愛想なし以前に人見知りが強いと山根は言う。
だからこそ、アルバイトなどスタッフの出入りが激しいガソリンスタンドで気を遣い、会話を合わせることが無駄だと感じている。
新人教育などアルバイト管理は全て社交的で愛想の良い山根に任せていた。
アヤも、めぐみに何度となく聞いていた。
「何故、愛想ひとつない佐藤くんが良いの??佐藤くんの魅力がわからないわ、、、もう、いっそうのこと香川くんとかさ、そこらへんにしとけば?わりとカッコ良いし、優しいし、、、」
冗談半分、笑いながら、めぐみにアドバイスをするアヤ。
たしかに半年以上、もう9ヶ月になろうとしている。出会ったときと佐藤くんとめぐみの関係性は変わらないがアヤと中山は、すでに同性生活をしていた。
アヤと中山は日々進化している。
付き合って3ヶ月程度で同性生活とは、かなり早過ぎる気もするが中山はアヤに惚れていて、アヤも1人暮らしでは自由な金も使えない。
スーパーマーケットも週5日、ロングタイムで働き、ギリギリきりつめて生活ができるありさまだ。
定期的に働くことが苦手なアヤにとっては、中山と生活することで生活の為に縛られて日夜働くこともない。
中山は同性生活費すべて、家賃、光熱費、食費を負担している。
もちろんアヤも多少の食費は持つが、中山はアヤに金銭的な要求は何ひとつしない。
アヤが一緒に暮らしてくれれば良い。
それほど、アヤが好きだと言うことだろう。
アヤは、生活費に追われなくなるとアヤの悪い癖が現れはじめる。
適当な理由をつけては決められたシフトを休みがちになった。
結局、そのしわ寄せは友達であり共に1人暮らしをして生活がかかっている、めぐみ。アヤを紹介した手前、申し訳なさも感じて、めぐみはアヤのシフトを埋めていた。社長夫婦も、めぐみに頼りきっていることは申し訳ないと感じているようで、わずかながら時給をアップした。
めぐみを陰ながら支えてくれている。
季節は11月末。
最近では日が落ちるのも早い。
夜は北風が吹きはじめて寒さと人恋しさを感じる季節。
めぐみはラスト20時まで頼まれていた。
佐藤くんは15時に来店したから夜に来店することはありえない。
ラストまで働いていても楽しみにが特にない。
店内は客もいない。
響く声はBGMのラジオだけ。
ガラスの自動ドアから通す景色は真っ暗に染まり道を行き交うヒトは誰ひとり歩いていない。
めぐみはレジカウンターで伝票のチェックと売れ残った返品雑誌を束ねたりと黙々と作業していた。
本来ならアヤがするべき仕事だがアヤは中山とデートでもしているのだろう。
アヤが出勤していたところでアヤは率先して仕事をしない。
「忘れた!」と毎回とぼける。
めぐみは黙々と仕事をこなしていた。
何かに集中していないと佐藤くんのことばかり考える。考えれば考えるほど何ひとつ進展しない佐藤くんとの関係とアヤと中山たちを比べてしまう。
大袈裟かも知れないが、神様と言うヤツは、いないと感じる。
仕事を頑張って時給が多少アップしても満たされないものがある。
たった一言、声にだして気持ちを伝えたら、佐藤くんとの関係は変わるのだろうか?このまま黙っていても佐藤くんから声をかけてくれることは、ありえない。
そんな奇跡的なこと起こるわけもない。
結局、作業を黙々と手を動かしながらも佐藤くんのことを考えていた。
誰もいない店内に自動ドアが開き来店客を教えるチャイムが響く。
・・・・ピンポーン、ピンポーン・・・・・
めぐみは顔を上げながら、「いらっしゃいませー」明るく声をかけた。
来店客を見て、めぐみは心の中で叫んだ。
「えっ!?うそっ!うそっ!うそっでしょ?」
心臓の鼓動がドキドキと早くて胸をキュとしめつける。
制服姿の佐藤くん。
佐藤くんはチラリとカウンターで作業している、
めぐみを一瞬見た。
と言うか、めぐみには見たように思えた。
すぐに目を逸らし、
佐藤くんは店内奥の雑貨コーナーに小走りに歩いて行った・・・・・・。
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