悪役令嬢の死亡フラグを回避した方法

バカヤロウ

第1話

(ヤマト視点)


本日はお嬢様の卒業式。


お嬢様は本日、婚約者を主人公に奪われてしまい泣きながら帰ってくる……はずだった。


「たっだいま~」


超上機嫌なお嬢様は着の身着のままソファーにダイブ。


あまりに勢いよく飛び込むものだから男受けする豊満な身体は高級なソファーのふかふかで包み込まれて埋まってしまう。


「やっと終わったぁ」


明らかに落ち着いており、悲しんでいるというよりも寧ろ喜んでいるようにも見える。


あれ?


泣いていない?


どうして?


失意の中、悲壮な表情で帰ってくることを予想していたのが真逆の状態で俺は唖然としていた。


「どうしたの、そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」


特に悲しむ様子もなくいつも通り、いや、いつも以上に陽気なお嬢様。

ただ、お嬢様の悲しい顔を見なくてよかったという安堵と彼女の笑顔を素直に喜ぶ自分がいることにも気が付く。


「いえ……その……」


自分でも驚くほど自然に笑顔になったと思う。



「もう何か言いたいことあるの?」


笑顔が不自然だっただろうか?

お嬢様がベッドでうつ伏せのまま膨れっ面でこちらに目を向ける。

まあ、正直、どうなったか聞きたいので俺は、



「えっとですね、婚約者のアレックス殿下とはどうでした?」

「どうっていつも通りよ」

「そう……ですか……お嬢様は大丈夫ですか?」

「だから何が大丈夫なのよ?」


うん、埒が明かない。

俺は率直にお嬢様に申し上げる。


「いえ、その……婚約破棄などになっていないのかと……?」

「はぁ?婚約破棄?誰が?」

「お嬢様が」

「誰と?」

「アレックス殿下と」

「そんなことはないわ。今日の卒業式パーティーではエスコートしてくださるほど仲がよろしくてよ」

「さようでございますか……」


あれ?

どうなっている?

歴史が変わったのか?


「どうしたの?私たちが婚約破棄したほうがよかったの?」

「滅相もございません」


俺は首を横に振る。


「それとも私が今日、卒業式パーティーでアレックス殿下に婚約破棄されるシーンでも見えたのかしら?」


お嬢様の言葉に俺は心臓が大きく鼓動するのを感じる。


「えっ?お嬢様もしかして?」

「何?」

「いえ、その……アレックス殿下とリアリス嬢との……何と言いますか」

「もうはっきりと言いなさい。あなたのそういうところ嫌いですわ」


お嬢様は起き上がり俺の目を見てくる。

その表情は明らかに俺のじれったい態度に怒っている。


一体どうなっている?

お嬢様はどこまで知っている?

ただ、言い淀んでいても埒が明かない。

ここはお嬢様が傷つくかもしれないがストレートに話をするしかないようだ。


「……こほん。お嬢様、心して聞いてください。アレックス殿下とリアリス嬢は恋仲だと考えられます。なぜなら……」

「そう言ったストーリーの世界だからですか?」

「まさか、お嬢様はご存じで?」

「ええ、何と言っても私は悪役令嬢ですから」


“悪役令嬢”……このワードが出てくるということはお嬢様も?


「そこまでご存じとはおみそれしました」

「もしかして、心配してくれたのかしら?」


お嬢様は再度ベッドでうつ伏せになった。


「もちろんです。落ち込んで帰ってくるお嬢様をどうやって慰めようか考えてましたよ」

「落ち込んだ振りをして帰ってくればもしかして……(上手くいった?)」


うつ伏せになり枕に顔を埋めてぼやくお嬢様の言葉が上手く聞き取れなかった。


「何か言いましたか?」

「何も言ってないわ」

「それよりもどうやって婚約破棄に追放死亡フラグを回避したのですか?」

「ああ、そんなものは造作もないわ」


俺の話が退屈なのだろうか?

仕方なしで話を続けてくれるお嬢様。

しかし、その内容は……


「ほう……流石です。して、どのように?」

「この間、あなたと一緒に同じ部屋で寝たでしょ?」

「ええ、一緒に寝て欲しいと言われたので部屋の隅で待機しておりました」

「本当なら一緒にベッドで寝ればよかったのに」

「そういうわけにはいきません。婚約中の女性と一緒に寝るなど言語道断です。何かあればお嬢様だけでなく殿下も気分を害するでしょうから」

「そう、それを使ったわ」

「えっ……それ……とは?」

「だから、あなたと一緒の部屋で同衾したことよ」


俺は背筋が凍る。

お嬢様の言っていることが理解できてしまった。

だが、もしかしたらとその後も話を続ける。


「……は?」

「だ・か・ら、あなたと一緒に寝たって言った」

「誰に?」

「王子に」

「誰が?」

「私が」

「誰と?」

「もう話が通じないわね。あなたと一緒に私は寝たって王子様に真実を打ち明けたの」

「……はぁぁぁ?」


俺は顔を手で覆い天を仰ぐ。

王子様にか……ということは……今瀬も短い人生だったな。


「まあ、同じ部屋で一晩過ごしただけだけど」

「そうです。私はそのようなことは」

「まあ、どのように捉えてしまうかは王子次第でしたがね」

「どうしてくれるんですか!まるで、私が王子様の婚約者を寝取ったようになっているじゃないですか」

「そうやって仕向けたのよ。彼の性格を熟知したうえでね」

「はい?熟知したうえってどういうことですか?」

「王子様は我が儘で横暴な態度をとることが良くあるの。でも、弟君のほうが優秀で劣等感を持っているという側面もある。こういう人は大抵、独占欲が強い傾向にあるのよ。だから、それを少し刺激してみただけ、あっさりと騙されてくれたけどね」

「えっと、つまりは……手放すの惜しくなった?」

「まあ、簡単に言ったらそんなところね」


なるほどっとお嬢様の言葉に納得はする。

お嬢様自身、身を守るために……でも、俺の保証は何処にもない。


「でも、それって俺……やばくない?」

「大丈夫よ」

「何を根拠に?」

「だって、いざとなったら私と駆け落ちでもすればいいのよ」

「それを大丈夫と言われても……」

「何よ、私とでは不満とでも?」

「そういう問題ではありません」

「何が問題っていうの?」

「そもそもお嬢様は不貞行為をしたと思われていますよ」

「大丈夫よ。あいつ変態だから」

「そういう問題ですか」

「現にあの人はお熱になっていたリアリス嬢ではなく私に夢中なのよ」

「まさか……」

「残念なことにあの人、逃げるものを追う習性があるみたいね」

「難儀な性格ですね」

「それと同時にあなたは私の傍にいなさい。そうでないとあの人の気持ちが別に移ってしまうわ」


お傍にね……まあ、惚れた女だ。言われなくても傍にいるつもりで入るが……首が跳ねられるのとどっちが先か……。


「今まで通り、俺はお嬢様のお傍にいますよ」

「ええ、絶対に傍に居て頂戴」

「もちろんです」

「(一生……傍に)」

「声が小さくて聞こえませんが」

「なんでもないわ」

「にしてもお嬢様……よかったぁ」


まあ、今はお嬢様が死ぬことがなくて良かったと考えよう。

本当なら明日にでも死ぬストーリーラインも存在したのだ。


「あら心配してくれていたの?」

「当たり前じゃないですか。この日に追放死亡という未来を聞いた時からどれだけ心痛めていたことか」

「それでもいつも冷静なヤマトとは少し違ったヤマトが見れたのね。まあ、心配してくれてるなんて意外だわ」

「俺が大切なお嬢様の心配をするのは当たり前です」

「……バカ」


あ、お嬢様、お顔が真っ赤で可愛い。

耳まで真っ赤だ。

俺としては……その……ちょっとぐらい弄ってもいいよね?


「今なんと?」


俺が聞き返すと涙目のお嬢様はすぐに枕を俺に投げつけてくる。

このツンとデレのギャップはたまりませんわ!


「なんでもないわ、それよりもこれからが問題よ」

「まだ問題があるのですか?」

「もちろんよ。むしろこっちのほうが大問題です」

「ん?まあ……当面はゆっくりと出来るのですね」

「そうね、しばらくはゆっくりとお茶でも楽しむことにするわ」

「では、ご要望通りお茶を入れてきますね」

「ありがとう、ヤマト」



☆彡


(お嬢様視点)


ヤマトがお茶を入れに行くため部屋を出る。

それと同時に部屋に控えていた侍女のアリーシャが声を掛けてくる。


「お嬢様、あのようなウソをついてどうなされるのですか?」

「何の事かしら?」


私はついに婚約破棄をされることになった。

ただ、このことはヤマトには内緒。

絶対に彼は心配してしまうわ。


「国外追放を言い渡されたじゃないですか」


その事実は婚約破棄をされて国外追放になっている。


「そんなことはどうでもいいのよ。それよりもヤマトには言わないでね」

「まあ、かなり心配していましたから当面は伏せておきますよ」

「え?ヤマトってそんなに心配していたの?」

「はい。ろくに寝ていないはずです。目の下のクマを隠すために前髪をおろしているぐらいですから」

「そうなんだ……野暮ったい身なりになっていると思ったらそういうことなのね」


ヤマト、本気で私の心配をしてくれていたのね。

ゲームの世界ではキャラ絵すらない彼に恋した私。

彼と最初に出会い、繋いだ手の温もりを思い出す。


「どうしました、お嬢様?震えています。寒いですか?」

「違うの……寝不足になるまで私の心配をしてくれるヤマト……嬉しすぎて……怖いの」

「そうですか、でもこれからは離れてしまいますが如何なされますか?」


ああ、アリーシャは私一人が国外追放されていると思っているのね。


「大丈夫よ、ヤマトにはついてきてもらうわ。旅行ということにしておきましょう」

「旅行ですか……まあ、お嬢様にとっては旅行ですかね」

「ええ、そうよ。ヤマトと二人きりじゃないことが惜しいけどそこは我慢するわ」


私の言葉に何故か棘のある言葉を吐き出すアリーシャ。


「我慢?我が儘の間違いでは?それにわざわざ王子様に吹っ掛けるなんてどういう神経をしているのやら」

「私は手に入れたいものがあれば妥協なんてしないわ」

「妥協というか王子様を利用するなんて」

「当り前よ、ヤマトを手に入れることが出来るなら本望です」

「今も使用人として手に入れているじゃないですか?」


そうね、使用人……違う。

私が望んでいるのは、


「違うの……もっとこう……手をつないだり……毎日、同じベッドで寝たり……いっそのこと子作りとか……///」


どうしよう、想像しただけで顔が熱い。


「はいはい、ご馳走様です」

「あ、そういえば……ねえ、アネーシャ……あなたヤマトと仲いいわよね」

「まあ同僚ですから」


同僚ね……本当にそれならいいんだけど。


「いつも何しているの?」

「そうですね。一緒に家事をしたり、買い物したり……まあ、時には一緒に食事をしていますね」


え?ちょっと待って、それってまるで……恋人のような……。


「アリーシャ………………取らないでね?」

「取りませんよ」

「本当?」

私の言葉にアリーシャは不敵な笑みで攻撃をしてくる。


「愛人どまりにしておきますから」

「あなた……」

「半分、冗談ですよ」

「やめてよね、女としてあなたに勝てる自信がないから」


本当にやめて欲しい。

アリーシャ、あなた自覚がないのかもしれないけど、男子の視線をどれだけ釘付けにしているか分かってるの?

この9頭身の巨乳お化けめ!


「大丈夫、お嬢様も十分にいい女です」

「……貴方に言われても嫌味にしか聞こえないわ」

「まあ、私は旅行の準備でもしてきますね。3人分」

「…………頼んだわ」



三日後に私とヤマト、アネーシャは他国へと渡ることになった。


新天地でどうなったかは、別のお話だよね……ヤマト♡

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