風竜様起床大作戦! 2
夕食と入浴を終え、ガイ様と一緒にベッドにもぐりこみます。
「それにしても災難だったな」
ファティマさんが隣室に下がったあとで、ガイ様がころんとわたくしの方を向いておっしゃいました。
「最初は驚いたし不安でしたけど、皆さまとてもよくしてくださるのでそれほど苦労はないのですよ」
言葉の壁もファティマさんのおかげでそれほど感じないですし。
……グレアム様やメロディたちに会えなくて寂しいとは思うのですけど、めそめそしても事態は好転しませんからね。それに、こうしてガイ様にも会えましたもの! ガイ様がいらっしゃるだけでとっても心強いです!
「我が今すぐ連れて帰ってやることもできるが、アレクシアが恩を感じているのなら付き合うよりあるまい。そういえば、グレアムとは連絡を取ったのか?」
「いいえ。連絡を取る手段がないのです……」
「そういうことか。ちと待て。つないでやろう」
ガイ様は上体を起こして、前方に手をかざしました。
すると、光魔術でしょうか……いえ、光だけではなく様々な属性の魔力を感じます。ガイ様はこともなげな顔をしていますが、これはおそらくとてつもなく高度な魔術です。
「二人以上の光魔術の使い手の共同魔術で、一方の術者のいる場所をもう片方の術者に映像として見せる魔術があるだろう? あれの元となった古代魔術だ。これは強制的に対象者とつなげる術なのだ。消費魔力が多すぎて、人や獣人が使おうと思えば数十人がかりになるゆえ、廃れたのだろう」
やはりとんでもなく高度な魔術でした!
驚いている間に、ガイ様の手をかざした先の空間が陽炎のように揺れて――そして、グレアム様のびっくりしているお顔が映し出されます。
「グレアム様!」
「アレクシア⁉」
わたくしは跳ねるように上体を起こして、空間に手を伸ばします。
しかしあくまで映像ですので、映し出されているグレアム様に触れることはできません。
「アレクシア! 今どこにいるんだ! 無事なのか⁉」
「はい、わたくしは無事です。今はバラボア国にいるのです。この魔術はガイ様が発動してくださっていて……」
わたくしは、グレアム様と映像越しですが会えた感動で頭の中が真っ白になりながら、しどろもどろにこれまでのことを説明しました。
「やはりあの鍵か!」
わたくしの説明を聞くとグレアム様は舌打ちして、今、グレアム様もバラボア国へ向かっていると教えてくださいました。
わたくしの消えた原因は骨董市で見つけた鍵だろうと推測を立て、そこから鍵の出所がバラボア国だと行きついたのだそうです。
……やっぱりわたくしを探してくださっていたのですね……!
嬉しくて頭がどうにかしそうでした。
ぶわっと涙があふれて止まらなくなってしまいます。
……会いたいです、会いたい。映像越しではなくグレアム様に今すぐ会いたいです。会って、ぎゅうって抱き着きたい……!
でも、もちろんそんな我儘は言えません。そんなことを言えばグレアム様を困らせてしまいます。こちらへ向かってくださっているのですから、待っていれば会えるはずですもの。
わたくしはごしごしと目元をこすって、精一杯微笑みます。
「バラボア国の皆様はとても親切で、そしてガイ様とドウェインさんもいらっしゃいます。だから安心してください」
「うむ。何があってもアレクシアには傷一つつけぬ」
ガイ様が胸を張って答えます。……ふふ、とっても頼もしいです。そしてガイ様のお可愛らしい様子に涙も引っ込みました。ありがとうございます。
「……どうしてドウェインがそこにいるんだ」
「話せば長くなるのだが聞きたいか?」
「……やめておく。どうせキノコがらみだろう」
グレアム様、ご明察です!
グレアム様ははーっと息を吐き出して、頭をかきました。
「アレクシアの側にいるもう一人がドウェインというのが不安だが、一応優秀ではあるからな」
「大丈夫です。キノコで釣れば動いてくださるのです」
「それはいいが……キノコで釣った場合、後が怖いぞ」
……そ、そうですね。コードウェルに新しいキノコが増える可能性大です。
絶対に不可能であろうと思われたサンゴキノコすら、手に入れるためにサンゴを入手して帰ったのほどですもの。キノコへの執着心から、ドウェインさんは何をしでかすかわかりません。
「そういえば、ドウェインはどうやってバラボア国まで行ったんだ? 空を飛んでか?」
「半分正解です。正確には空飛ぶキノコでやってきました」
「……は?」
「ドウェインさん曰く、高度な魔術の集大成なのだそうです。ドウェインさんのキノコの家くらい大きな巨大キノコに翼が生えていて、ぱたぱたと空を飛ぶんですよ」
「想像したくないな……」
「はい。本当に毎回思うのですけど、何故キノコの形状にこだわるのでしょうね……。普通の形をしていたらすごい発明だと思うのですけど、キノコのせいでまったく感動できません」
「そうだな。……ただ、原理だけは気になる」
……はい、グレアム様ならそうおっしゃると思っていました。あ。ではこのお話も喜んでくださいますでしょうか。
「空飛ぶ乗り物なら、ドウェインさんの空飛ぶキノコ以外にもありますよ。この国には空飛ぶ絨毯があるのです」
「なんだそれは」
「絨毯の上に人を乗せて空を飛ぶのですよ。魔術具の一種です」
「詳しく教えてくれ」
グレアム様が興味津々な顔になりました。
ふふっ、魔術具のお話をするときの目をキラキラさせたグレアム様を見るのも本当に久しぶりな気がいたします。
「わたくしも詳しく見たわけではないので、どのような魔術が組み込まれているのかはわからないのですが、帰る時に一ついただけないかなと思っていました」
「ぜひ欲しいな!」
「巫女の役目を終えた後、もし褒章を頂けるのであれば交渉してみようと思います!」
「ありがとうアレクシア。……しかし、巫女、か。俺が骨董市であんなものを買ったばっかりに妙なことに巻き込んでしまったな」
「いえ、もとはと言えばわたくしが鍵に魔力を流してしまったのが原因ですから、わたくしの落ち度です」
危険があるかもしれないと聞いていたにもかかわらず、魔力を流したわたくしが悪いのです。断り切れなかったにしても、もっとやりようがあったと思います。少しぐらいならいいだろうと過信したわたくしが暗愚だったのです。
「王妃様やルイーズ様とミシェル様、ジョエル君は大丈夫でしたか?」
「あちらの王族のことは知らんが、ジョエルは一度デネーケ村に戻ってケントたちに今回のことを相談しているはずだ。アレクシアは無事だと俺の方から伝言を飛ばしておく」
「はい、ぜひお願いします」
ジョエル君はお優しいですから、きっと心配してくださっていると思いますもの。わたくしは無事と伝えれば安心してくださるはずです。
「俺もあと数日もあればそちらに到着するはずだ。もう少しだけ待っていてくれ」
「はい!」
「ではもう夜も遅い。ゆっくり休め。それからあまり無理はしないように。火竜、アレクシアを頼む」
「任せておけ」
ガイ様が頼もしく胸を張って、そしてグレアム様との通信を切りました。
「……ガイ様、ありがとうございました」
「うむ。このくらい我にとっては造作ない」
「ふふ、ガイ様は本当にすごいです」
わたくしはガイ様のお世話係のはずですのに、これではどちらがお世話されているのかわかりませんね。
ガイ様とベッドに横になって、おやすみなさいを言い合った後で目を閉じます。
……あと数日。あと数日で、グレアム様にお会いできます……!
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