風竜様起床大作戦! 1
わたくしとガイ様は、今後のことを話し合うために会議室へ向かいました。
会議室にはサラーフ様とファティマさん、そしてドウェインさんの姿もあります。
……本人はまったくやる気はないですが、たぶんわたくしの「仲間」認定されて連れてこられたのでしょうね。ドウェインさんの仲間認識をされると、あとあと迷惑をこうむりそうなので、わたくしは他人のふりをしたいのですが致し方ありません。
会議室にはほかの方の姿はございませんでしたので、サラーフ様が気を使ってくださったのだと思います。
「お話をはじめる前に、わたくしから少しいいですか? ええっと、風竜様ですが、どうやらわたくしの勘違いで、ご寝所でお眠りになっていた男性の方がその……風竜様のようなのですよ」
『なんだって⁉』
サラーフ様が愕然とされました。
そうですよね。わたくしもガイ様のお話を聞くまで、まさかくーくーと熟睡なさって梃子でも起きない方が風竜様だとは思いませんでしたもの。
『アレクシアはどうしてわかったんだ?』
「ええっと、ですね……火竜の一族には竜の方の外見に関する情報が残っておりまして、ガイ様がそれを思い出してくださったのです!」
ガイ様が火竜であることは秘密ですから、余計なことは言えません。
ドウェインさんが怪訝そうな顔をしていますが、お願いですから今日のところは空気を読んでください。
すると、ガイ様が流れるように魔術を発動し、ドウェインさんにだけ声が聞こえるようにして事情をご説明くださいました。さすがガイ様です。頼りになります!
ドウェインさんは納得してくださったみたいですが、途端に興味なさげになりました。話はこれからなのに、もうすでに全部聞いた感になるのはやめてくださいませ。
「姫、竜よりキノコを探しに行きたいんですが」
すぐこれですよ!
どうしてこの方は何をさておきキノコなのでしょう。
わたくしはガイ様と視線を交わして、ここの来る前に考えたとっておきを口にします。
「ドウェインさん。風竜様がお眠りになっているピラミッドは、ずっと封鎖されたままだったそうです。もしかしたら未知のキノコが生えているかもしれませんよ」
「なんですって⁉」
「ピラミッドの中には基本的に王族の方と巫女以外は立ち入り禁止だそうですが、風竜様がお目覚めになった後でご本人から許可を頂ければ入ることができるかもしれません」
「それを早くいってください姫‼」
……ふう、ひとまずこれでドウェインさんを戦力に追加できましたね。
『アレクシア、ピラミッドは風竜様のご寝所なのだが……』
「大丈夫です、許可がなければ入らないと思うので」
さすがにドウェインさんでも竜を敵に回したくはないはずですからね。風竜様がダメと言えばあきらめるはずです。とりあえず、今はドウェインさんを動かす材料がほしいだけなのですよ。
ドウェインさんはわくわくした顔をしているので、すでに頭の中は未知のキノコへの探求心でいっぱいでしょうけどね。
……興味がピラミッドの中に向いたので、これで当分はエウリュアレーとかいう混沌茸二号を探しに行ったりはしないでしょう。このまま忘れてくれればいいんですけどね。相手はドウェインさんですので、その望みは薄いですが。
「姫、まどろっこしい作戦なんて考えないでも、身の危険を感じたら起きるんじゃないですか? ガイ様が全力で攻撃すれば風竜様も――」
「ドウェインさん、お願いですからバラボア国と戦争になりそうな危険極まりないことを口にするのはやめてください!」
なんてことを言うのでしょう。
そもそもガイ様が全力で攻撃したらピラミッドごと壊れてしまうのではないですか? 何と言っても、ハイリンヒ山の噴火を一瞬で止めるほどのお力を持った火竜様ですよ?
わたくしはごほんと咳ばらいをして、努めて冷静にドウェインさんに言います。
「ドウェインさん。ドウェインさんの作戦だとピラミッドまで破壊される可能性があります」
「さっきのは聞かなかったことにしてください絶対にやめましょう!」
「わかってくださって嬉しいです」
『アレクシア、そなたの弟はとても強いのだな』
「うむ、我は強いぞ」
「え? そ、そうですね! ガイ様は火竜の一族で一番強いのです!」
ガイ様はどうやら、バラボア国の言葉も理解しているみたいですね。ファティマさんが通訳する前にサラーフ様に答えられましたから。さすが火竜様です。
ガイ様はサラーフ様をじっと見つめられてから、バラボア国の言葉で言いました。
『先ほどのドウェインの作戦は周囲に出る被害が大きすぎるので薦めれれないが、風竜は……その、一族に残る記録によると、そのくらいせねば起きぬ。とにかく眠るのが大好きなのだ。ゆえに、風竜を起こすのは骨が折れる。そなたたちの協力は不可欠だ』
『もちろん、風竜様のお目覚めは我らの悲願である。協力は惜しまない』
『うむ。それでは作戦だな――』
ガイ様はそこでバラボア国の言葉を使うのをやめて、わたくしに向き直りました。
「アレクシア。風竜の寝床はどのくらいの広さだった?」
「ええっと、この会議室くらいですね」
「なるほど、狭いな。あと他のものが入れないのも困る。……仕方ない。我が出向いて、この城まで運んでこよう」
ガイ様は今度はサラーフ様に向き直りました。
『記録によると、風竜は寝ることと食べることが好きなのだ。目の前に大量の好物を並べて宴会でもはじめれば、匂いに釣られて起きると思う』
『そんな簡単なことでいいのか?』
『他よりは一番確率が高い。だが寝所は狭いのだろう? そしてほかのものは入れない。だから我がここまで運んで来ようと思うのだが問題ないか?』
『ファティマから、そなたの魔力にも鍵が反応したと聞いている。鍵が反応するのであればご寝所に入っても問題ない。……頼んでもいいか?』
『うむ』
『ではさっそく、城に風竜様のご寝所を整えよう。ファティマ、女官長に命じて急ぎ部屋を整えさせてくれ。宴会もするのだ。広間がいいと思う』
『わかりました』
『今日中に部屋を整えるので、ガイ殿には明日、風竜様をお連れしてもらいたい』
『それで構わぬ』
ガイ様は外見は五歳ほどの子供の姿ですが、漂う威厳と申しますか、ただものではない気配にサラーフ様も自然と丁寧なお言葉になっています。
こうして明日、風竜様をお城に運ぶことが決定されました。
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