風竜様はお寝坊さんです 3
「……あの方を起こすのは無理でした。すみません」
男性の腕を引きはがそうと暴れまわったせいで疲労困憊のわたくしは、ぐったりしながら扉の外で待つファティマさんとサラーフ様の元へ戻りました。
『疲れているようだが大丈夫か?』
「はい、大丈夫ですよ……はは」
つい乾いた笑いがこぼれてしまいます。
あそこまで何をしても起きない方を見るのは人生はじめてですよ。びっくりです。
サラーフ様は顎に手を当てて考えられて、結論を出しました。
曰く――ひとまず放置です。
風竜様のご寝所へつながるのは、この扉のみです。
そしてこの扉は巫女の魔力と鍵がなければ開けられません。
すなわち、部屋の中で爆睡中のあの方を放置しておいても、逃げられないのです。
風竜様がいらっしゃらないのは想定外でしたから、一度戻って今後のことを話しあわねばなりません。
熟睡中のあの方よりもそちらのほうが大切なのです。
……なぜならわたくしが帰れるか帰れないかという重大な問題がかかっておりますから!
あの方のお食事問題などは気になるところですが、側に張り付いて起きるのをひたすら待つわけにもまいりませんからね。明日にでも様子を見に戻ってくればいいでしょう。たぶん、一日くらいなら放置していても死なないはずです。というか、このまま明日まで眠り続けそうですし。
……まさかとは思いますけど、混沌茸のような強力な眠りキノコを食べたわけではありませんよね? 違いますよね? あんな奇妙なものを喜んで口にするのはドウェインさんくらいですもの。ドウェインさんのような方が二人もいたら困ります。
わたくしたちは下って来た階段をえっちらおっちら上って、ようやく地上にたどり着きます。
うん、太陽がまぶし――って、あれはなんでしょうか。
太陽光の眩しさに目を細めたわたくしは、目の前に奇妙な物体を見つけて思わずひくっと頬を引きつらせました。
大勢の兵士の方に取り囲まれている中にある――あれ。
『なんだあれは』
サラーフ様も目を点にしていらっしゃいます。
そうでしょうそうでしょう。あんなもの、普通は存在しません。そして、あんな奇妙で奇抜で異次元の物体を作り出すような方に、わたくしは一人しか心当たりはいませんでした。
「何をしているんですかドウェインさん⁉」
巨大なキノコ――しかも翼が生えていたり扉があったりしますよ⁉――の前で、兵士に囲まれている肩甲骨ほどのまでの長さの金髪の男性が振り返って、ぱあっと微笑みました。
「あ、姫! 奇遇ですねー」
そうですね。でもこんな奇遇はあってほしくなかったです。
一人ぼっちでこの国に飛ばされた心もとなく、とっても寂しかったですけど――こんな形でドウェインさんには会いたくなかったですよ。
ドウェインさんでもいいからここにいてほしいと思っていた数日前の自分を叱咤したいです。
ドウェインさんが親し気にわたくしに手を振ったせいで、兵士の方々の視線が突き刺さります。
いやですよ、あのキノコオタクさんと同類にしないでくださいお願いします!
「……ドウェインさん、コードウェルでお留守番中ですよね、どういうことですか」
コードウェルにいるはずのドウェインさんが、どうして南の果てにあるバラボア国にいるのでしょう。
けれどもドウェインさんは相変わらずドウェインさんです。話が通じません。
「姫、ここに珍しいキノコがあると聞いてきたんですけど見ませんでしたか?」
……珍しいキノコと言えばあれですよね。あれしかありません。でも答えたくはありませんよ。混沌茸同様に量産されたら大変ですからね‼
わたくしが本気で泣きそうになっていると、妙なキノコの家なのか何なのかわからない物体の中から、申し訳なさそうな顔でもうお一人出てきました。
「って、ガイ様⁉」
「……すまん、アレクシア。せめて責任をもって監視しようとついてきたのだが、無理だった」
しょんぼりとうなだれるガイ様に、わたくしは慌てて駆けよります。
兵士の方もわたくしが駆け寄ると、剣を引いてくださいました。
……いいんですよガイ様。あの方はコントロール不能なのです! ガイ様が悪いわけではありません! むしろ、ああっ、こんなにやつれた顔をして! ドウェインさんがガイ様へどれほどの心労を与えたのか目に見えるようですよ!
ガイ様を腕に抱き上げると、よほどお疲れだったのでしょう「はー」と長い長いため息を吐かれました。
『アレクシア、そちらは?』
振り返れば、サラーフ様が困惑した顔をしています。
……そうでした! ドウェインさんはともかく、ガイ様の存在は秘密なのです‼
わたくしは一生懸命頭を回転させて回転させすぎて混乱しながら叫びました。
「こ、この方はわたくしの弟です!」
すると、ドウェインさんが奇妙な顔で言いました。
「姫、暑さにやられておかしくなったんですか?」
ドウェインさんにだけは言われたくありません‼
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます