竜の巫女ってなんですか? 2

 骨董市の、昨日古い魔術具の欠片を大量に購入した店に到着したグレアムは、座ってぷかりぷかりとキセルを吹かしている老人を見てホッと息を吐き出した。


「おや、また来たのかい。でも今日は壊れた魔術具の欠片はないんだよ。あるのは、このあたりくらいさね」


 あんたが全部買って行ったからねえと好々爺然とした顔で笑いながら、店主は店に並べられているガラクタを指さす。

 これらは本当にガラクタだった。土器の破片や、青銅で作られたよくわからないようなものばかりである。

 これらも、その筋の研究者には価値のあるものかもしれないが、魔術具以外に興味のないグレアムにはまったくと言って興味のそそられないものばかりだった。


「今日は買い物に来たわけではない。少し聞きたいことがあってきたんだ」


 はやる気持ちを押さえて、グレアムは持って来た幾何学模様の箱を見せた。


「これをどこで手に入れたか教えてくれ」

「どこでと言われてもねえ。こっちも仕入れたものだからね」

「では、これを店主に売った人間を教えてくれないか」

「そうだねえ……」


 店主は腕を組んで考え込んだが、グレアムが必死な様子を見て肩をすくめた。


「本当は教えないことにしているんだが、特別だよ。あんたは悪い人間ではないみたいだからね。それはバラボア国で盗掘を生業としている人間から買ったんだ」

「盗掘⁉」

「大きな声を出さんでくれ。こっちも商売なんだ。商売相手が誰だろうと、どこで仕入れたものだろうと、わしが損しなければそれでいい」


 いや、よくないだろうとグレアムは突っ込みそうになったが、バラボア国は大陸の南の最南端にある国だ。国交もほとんどない。ホークヤード国で盗掘したものなら取り締まられるだろうが、はるか南の国のものならば取り締まる法律はないのだ。実際、バラボア国に限らず、離れた国や違う大陸の珍しい商品や骨董品の中には、出所が怪しいものも数多く存在する。店主が盗掘したわけではないのだからとやかく言う問題ではない。他国の事情だ。


「悪いは名前は明かせない。だが、バラボア国を拠点にしているから、今もそこにいるはずだ」

「つまり、これはバラボア国の移籍か何かから出土したものということか?」

「そうだと思う」

「……そうか」


 これまた、恐ろしく遠い国の名前が出てきたものだ。

 しかしこれが――正確にはこの中に入っていた鍵が何かを突き止めない限りアレクシアにはたどり着けない。


(迷っている暇はないな。鳥車があれば数日もあればたどり着けるだろう)


 鳥車を引くロックたちは大変だろうが、頑張ってもらうしかない。休憩を取りつつ、どうにかしてバラボア国へ向かわなくては。

 グレアム一人が魔術で飛んで行ってもいいのだが、ロックたちが許さないだろう。グレアムほどの魔術が使える人間はそうそういないがゼロでもない。ドウェインやジョエルがいい例だ。ドウェインやジョエルと一対一でやりあうなら負けないだろうが、集団で来られると分が悪い。

 特にバラボア国の情報はほとんどこちら側には入ってこない。ほとんど未知の場所に向かうのに、王弟で領主でもあるグレアムが一人で向かうわけにはいかないのだ。


「ありがとう」


 これ以上店主に訊ねても、有力な情報は得られそうになかった。

 グレアムは店主に礼を言うと、空を飛んで城へ急ぐ。


 ホークヤード国王に事情を話し、一分一秒でも早くバラボア国へ向かうのだ。




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