ホークヤード国に参ります 3

 魔術具の話で盛り上がって(?)いる間に、鳥車はホークヤード国の王都に到着いたしました。

 わたくしとグレアム様は、お城の玄関前でメロディとオルグさん、それから鳥車を引いてくださったロックさんをはじめとする諜報隊の皆様とお別れし、ホークヤード国王の元へ向かいます。

 到着のご挨拶をするのです。

 到着時間は前もってお伝えしておりましたので、国王陛下もお城のサロンでお待ちくださっているとのことでした。


 玄関でお出迎えしてくださった女官の方のご案内で、お城の二階にあるサロンへ向かいます。

 コードウェルのお城と同じで、ホークヤード国の王城にもサロンが複数あるそうですが、案内された部屋はとても広いところでした。

 部屋の中央に、装飾の見事な長方形のテーブルが置かれていて、それを囲うように、これまた豪華な椅子が並べられています。

 椅子の一つには、シルバーグレーの髪に茶色い瞳の四十代前半ほどの男性の方が座っていらっしゃいまして、その隣にはジョエル君がいらっしゃいました。


「ようこそ、グレアム殿下、奥方殿」


 どうやら、このシルバーグレーの髪の方がホークヤード国王陛下のようです。

 笑った感じがジョエル君と少し似ていますね。血のつながりを感じます。


「こちらこそ、お招きありがとうございます」


 グレアム様が余所行きの笑みを浮かべて、国王陛下と握手を交わしました。


「はじめまして、妻のアレクシアです。お招きいただきありがとうございます」


 何度も何度も練習したカーテシーでわたくしもご挨拶です。最初はふらついてうまくできなかったのですけど、メロディとマーシアが根気よく練習に付き合ってくれたおかげでなかなかうまくできたと思います。

 わたくしとグレアム様が席に着きますと、ティーセットが運ばれてきました。

 国王陛下は楽にしてくれとおっしゃってくださいますが、さすがに緊張して楽になどできません。

 ジョエル君はまるで我が家のようにくつろいだ顔でお茶を飲んでいらっしゃいますが、それは公表されていなくとも伯父と甥の関係だからこそでしょう。


「ハイリンヒ山の噴火の件では本当に世話になったな」

「いえ、大したことはしていませんよ」


 グレアム様が笑顔で応じます。


 ……ガイ様が噴火を鎮めたことは内緒ですからね。表向きは、グレアム様とジョエル君が協力して噴火を鎮めたことになっているのですよ。


「大したことだろう。危うく国の存続まで危ぶまれるところだったのだ。だというのに、ジョエルも褒章を断るし、グレアム殿下も金品は不要だなどと……。さすがに何か受け取ってもらわねば、こちらとしても困るのだがな」


 ……うーん。そうおっしゃられても、実際のところはガイ様のお手柄ですからね。さすがに褒章をもらうわけにはいかないと思うのですよ。


 グレアム様へは、先日、お礼の品を送りたいと連絡があったのですけど、丁重にお断りしたのですよ。


「この国の爵位など必要ではないからな」


 ジョエル君がクッキーを口に運びながらおっしゃります。

 なるほど、ジョエル君への褒章は爵位だったのですね。ジョエル君はこの国の国籍をお持ちではありませんが、爵位が贈られるとなると必然的に国籍を得ることになりますし、表向きはホークヤード国王と何の血縁もないことになっていますから、気が乗らなかったのでしょうね。


「ほかに欲しいものはないのか? 何ならうちの末娘でもいいんだが」

「なんで私が陛下の娘を貰わなければならないんだ。だいたいそれは褒章でも何でもないだろう。昔から同じようなことばかり」


 ホークヤード国王は、王女殿下をジョエル君に嫁がせたいのでしょうか。

 驚いていると、ホークヤード国王が残念そうに肩をすくめます。


「年回りがちょうどいいんだがな」

「私でなくとも、他に年回りがちょうどいい人間なんていくらでもいるだろうが。隣のラフォーレ国の第二王子だか第三王子だか忘れたが、同じくらいだろう?」

「……いつでも会いに行ける距離がいいじゃないか」

「そんな理由で私を巻き込まないでくれ」


 ジョエル君がものすごく面倒臭そうな顔になっていますよ。


「では、もう一つ邸でも……」

「二個も三個も邸をもらっても管理が面倒なだけだ」

「だったら何が欲しいんだ」

「だから何もいらないと言っている」


 なんとなくですが、この押し問答が幾度となく繰り返されたことが察せられます。ジョエル君がうんざりしていますからね。


「グレアム殿下も、何か一つでも受け取ってくれないか。なんでもいいんだが」


 ……陛下、何でもいいは禁句ですよ!


 ハッと隣を見やれば、金品にはまったくと言っていいほど心を動かされなかったグレアム様が、とっても嬉しそうな笑顔を浮かべていらっしゃいました。


「では、ここに滞在している間、こちらの魔術具研究所に自由に立ち入りできる許可をいただきたい」

「……そんなものでいいのか?」


 ……ホークヤード国王陛下。そんなもの、ではございません。グレアム様にとっては山のような金貨よりも何よりも尊いものがそれなのです。


 グレアム様が嬉しそうなので何も申しませんけどね、あとで知ったメロディが怒りそうです。


 ……滞在予定は一週間程度のはずだったんですけど、グレアム様が熱中した場合、滞在が伸びる可能性もありますね。


「ジョエル、お前はどうする?」


 グレアム様が褒章を受け取ってしまわれたから、ジョエル君がものすごく嫌そうな顔でグレアム様を睨みます。こうなれば、ジョエル君も何か受け取らざるを得ないのです。


「……わかった。じゃあ金でいい」


 ジョエル君がものすごーく投げやりに、そう言いました。






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