新婚夫婦の朝散歩 2

 ファシーナ様に見送られて、わたくしたちはブレーメの町から地上に戻ってきました。

 カペル島に降り立ちますと、そこにはロックさんとガイ様の姿があります。


「遅かったな」


 ガイ様は昨日の夕方、わたくしたちが魔術具を起動させセイレンを追い払う様を見ておいでだったようで、そろそろ帰ってくるだろうと踏んで迎えに来てくださったそうです。


「ただいま帰りましたガイ様! ご心配をおかけしてすみません!」


 ガイ様に目線を合わせてにこりと微笑みますと、ガイ様は腰に手を当てて胸を張ります。


「どうしようもなくなれば我が出向こうと思っておったが、問題ないようで何よりだ! ……それよりも、また、ずいぶんといろいろなものを持ち帰ったな」


 ガイ様がわたくしたちが抱えているお土産を見て、一転してあきれ顔をなさいました。


 ……そ、そうですよね。さすがにびっくりしますよね。ロックさんも目を丸くしていますし。


 わたくしはファシーナ様から頂いた夜光貝の装飾品を大きな袋にいっぱい抱えています。

 グレアム様はセイレンの魔石のほかに、古の動かない魔術具が十数個。


 そして……一番びっくりなのはドウェインさんですよ!

 おかしいなとは思ったのです!

 あれだけ欲しがっていたサンゴキノコを、あっさり諦めたのですから、絶対に裏があると思っていました。


 ……まさか、桃色サンゴをもらう約束をしていたなんて。そして、外でも桃色サンゴが死なないように、海水を入れた巨大な水槽の中に詰めています。その数、二個。大きいサンゴが、二個ありますよ。


 グレアム様もサンゴキノコの全属性の魔力をため性質には興味を示していましたから、あきれつつも何もおっしゃいません。あわよくば融通してもらおうとか考えているに違いありませんね。


「ドウェインさん、そのサンゴをどうするんですか?」

「そんなの決まっているじゃないですか。我が家で栽培するんですよ」


 我がやって、あのキノコハウスですよね。キノコも栽培しているのに、さらにサンゴも栽培するんですか。いえ、言ったところで止まりませんからもう知りませんよ。


 ドウェインさんは男でもサンゴキノコが生み出せないかを実験すると息まいています。ついでにわたくしにサンゴキノコを作ってほしいとおっしゃいましたが、そちらは丁重にお断りしました。だってドウェインさんのキノコハウスには足を踏み入れたくありませんから! 嫌ですよ、いつ「ぐげげげげげ」と言いながら混沌茸が飛び出してくるかもわからないような家に入りたくなんてありません。


 ……それに、サンゴキノコを作るのはとっても骨が折れましたから。


 わたくしたちが、お土産をかけてガイ様とロックさんとともにホテルに戻りますと、メロディとマーシア、そしてオルグさんが出迎えてくださいました。


「奥様! ご無事でよかったです! 戻れないと聞いたときはびっくりしたんですよ!」

「すみませんメロディ。でも、こうしてグレアム様もご無事ですし、ほら、お土産もいただいたのです。とっても綺麗なんですよ」


 わたくしが袋を開けて見せますと、キラキラと輝く夜光貝の装飾品にメロディがぱあっと破顔しました。


「本当ですね! すっごくきれいです」

「これ、みんなのお土産なんです。メロディもマーシアも好きなものを選んでくださいね。わたくしはこのイルカのブローチです!」

「わ、可愛い!」

「でしょう?」


 メロディがわたくしが抱えていた袋を持ってくれて、お部屋の中に入ります。

 今からわたくしはマーシアとメロディとともに夜光貝の装飾品を見るのです。

 グレアム様はもちろん持ち帰った魔術具を調べますし、ドウェインさんに至っては、桃色サンゴを早くコードウェルに持ち帰りたかったみたいで、そそくさと帰り支度をはじめました。一足早く帰るみたいですね。


「ガイ様には、ブレーメの町のお菓子がありますよ」


 ガイ様は装飾品にも魔術具にももちろんサンゴにも興味を示さないと思っていましたので、お菓子です。これもファシーナ様に頂きました。

 ロックさんとオルグさんは、夜光貝の装飾品の中に男性のものもありますから、そちらから選んでいただきます。タイピンやカフスボタンもとっても綺麗なんですよ。


「うむ、これもなかなかうまいな」


 ガイ様はさっそくお菓子を口に入れて満足そうです。

 明日のお昼過ぎにはここを出発してコードウェルに帰ると思うと、ちょっとだけ寂しい気がしますね。もちろん、コードウェルは大好きなのですが、なんだかんだとバタバタしてしまって、あんまりゆっくりできなかった気がします。


 ……もっとグレアム様とゆっくりしたかったな、なんて……我儘ですね。


 夜光貝の装飾品を見終わった後で昼食を取り、メロディがお買い物に行きましょうと誘ってくださったので、わたくしはほかにもお土産になりそうなものを探しに出かけることにしました。


「わたくしも、自分用に思い出になりそうなものが欲しいです」


 お店を見ながらわたくしが言いますと、メロディが驚いた顔をした後でにこりと微笑んでくださいました。


 ……わたくしの方から何かが欲しいと口にすることはあまりないことなので、びっくりしたのでしょうね。


「いいですね! それでは奥様の思い出になるものを探しに行きましょう!」


 何かが欲しいと思う感覚は、まだ少し、自分でははっきりとわからないところがあるのですけど、これからは自分自身を見つめながら口に出していこうと思うのです。

 人任せにするなと、ファシーナ様にも怒られてしまいましたからね!


 明日には帰らなければならないのは寂しいですが、わたくし、ここに来れてよかったなと思います。





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