新婚夫婦の朝散歩 1
ファシーナ様が突然倒れられたので驚きましたが、グレアム様がみたところ、魔力切れを起こして気絶したのだそうです。
安静にしていれば半日もすれば目覚めるそうですので、わたくしたちはひとまずブレーメの町にファシーナ様を送り届けました。
本日稼働した魔術具は十年ほどは問題なく稼働し続けるそうですが、十年後、魔術具が停止すると、またセイレンが戻ってくるのでしょう。
問題は完全に片付いたわけではないですが、逆に言えば十年の猶予があるのです。十年あれば、対策が練られると思いますし、もしかしたらファシーナ様の念願の魔力の高い子が産まれるかもしれません。
……でももう、既婚者を狙ったらだめですよ。
夜が明けるころにファシーナ様が目を覚まされたので、少しお話させていただいたときにそれとなく言いましたところ、ファシーナ様は小さく笑われました。
女性の寝室ですから、グレアム様やドウェインさんはいらっしゃいません。
「緊急性がないのじゃ、次は妻が乗り込んで来んで邪魔されぬよう、独身の男を探すことにする」
「できればずっと一緒にいてくれて、一緒にこの町を守ってくれる方を探してください」
「そなた、注文が多いの」
「おかしなことを言っているつもりはありませんよ」
その方がファシーナ様も幸せだと思います。もっと言えばファシーナ様が大好きになれる方ならなおのこといいのですが、女王の肩にのしかかる重圧はわたくしには推し量れないものがあるでしょうから、余計なことは言いません。心の中でお祈りしておくだけにとどめます。
「……悪かったな」
数拍の沈黙ののち、ファシーナ様がポツリとつぶやきました。
「サンゴキノコのことなら気にしていませんよ?」
「そうではない!」
「じゃあ、塔の島でのことですか?」
「違う! ……もうよい!」
わたくし、ファシーナ様を怒らせてしまったようです。
つん、と顎をそらしてそっぽを向いてしまわれました。
仕方なく、わたくしは立ち上がります。
このまま寝室にいては、ファシーナ様がゆっくり休めないでしょうし、怒らせてしまいましたから。
「ファシーナ様、わたくしたちは、お昼前にここを発ちますね」
「ああ」
ファシーナ様はそっけなくお返事されます。
……最初はグレアム様を襲ったのでファシーナ様のことが嫌いだったのですけど、わだかまりも解け、ちょっと仲良くなれた気がしたのに……わたくしの考えが浅はかだったようです。
しょんぼりしながら部屋を出ていこうとしたわたくしを、ファシーナ様が小さく振り返ります。
「……また……今度は、遊びにでも来るのじゃ」
振り返ると、ファシーナ様は明後日の方向を向いていました。
その頬が赤く染まっています。まるでサンゴキノコみたいな濃いピンク色です。
「……はい!」
わたくし、もしかしたら「お友達」というものができたのかもしれません!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます