作戦会議と突入 2
ドウェインさんがこのあたりに生息していると言う「クラゲキノコ」とやらを取りに行っている間に、わたくしはメロディに服を着替えさせていただきました。
ドレスやワンピースだと動きにくいですからね。ズボンを履いて、髪を一つにまとめます。
「万が一危なくなったら逃げてくださいね」
支度が終わり、メロディと一緒にお茶を飲んでいますと、メロディが心配そうな顔で言いました。
「大丈夫ですよ、ドウェインさんも一緒ですから」
ドウェインさんは優秀ですからね。……キノコが絡まなければですけど。
けれどメロディはまだ安心できないみたいです。
「あのキノコ馬鹿はいまいち信用できません。奥様とキノコを天秤にかけてキノコを選ばない保証はありませんからね」
そ、それは……わたくしも自信がありません。だって、ジョエル君の側近をしていた際も、ドウェインさん、キノコに釣られてジョエル君の命令を放棄しようとしましたからね。
「で、でもメロディ、海底にはさすがにキノコは生えていないと思うのですよ……」
海の底に生えるキノコなんて聞いたことがありませんからね。珍しいキノコに目がくらんでわたくしを放置することはないと思うのです。
それに、ドウェインさんがもしわたくしよりキノコを優先したとしても、わたくしは海底のブレーメの町に向かいますよ。メロディは心配してくださいますが、わたくし、多少の危険を伴ったとしてもグレアム様を救いに行くのです!
お強いグレアム様が戻ってこられないような状況ですもの、何かあったに決まっています。
ドウェインさんの推測通り、グレアム様の血を引いた子を欲しているのならば、なんとしても阻止せねばなりません! わたくし、妻ですもの! グレアム様のご意思であるならいざ知らず、そうでないなら邪魔をする権利はあるはずです。……と言いますか、本音を言えば、グレアム様ご本人の意志でも、その、とっても嫌なので、邪魔をしたいです。でも、わたくしの父がそうであったように、貴族の場合、お妾さんや愛人を抱えることは珍しくありませんので、グレアム様のご意思であれば勝手は変わってくるのですけど……、いえ、余計なことは考えません。考えると、行動できなくなりますから。
「奥様、ロックが戻ってきましたよ」
扉が叩かれて、外にいたオルグさんがロックさんの帰還を告げながらひょいと顔を出しました。
「え? もうクウィスロフト国から応援が来てくださったのですか?」
「いえ、そうじゃなくて、諜報隊が大勢王都へ向かいましたからね、奥様の警護が手薄になるので、女王陛下に報告を終えると、後の調整を副官に任せて戻ってきたみたいです。奥様が海底の町に向かうと聞いて目を白黒していますよ」
オルグさんが小さく笑って扉を大きく開けると、オルグさんの隣にロックさんがいらっしゃいました。ロックさんは困った顔をしています。
「奥様、オルグから事情を聞きました。さすがに奥様をブレーメに行かせるのは……」
「ドウェインさんが一緒ですから。それより、クウィスロフトからの応援はいつごろになりそうですか?」
「魔術師団長はすぐにでも自分が向かうとおっしゃってくださっていますが……、会議を通さなければ向かえないそうです。貴族のすることですから、早くても数日は待たされるでしょう」
「そうですか……」
予想通りですね。でも、魔術師団長様が動いてくださると言うのが聞けてホッとしました。もしもわたくしとドウェインさんだけでグレアム様の奪還が難しかった場合、魔術師団長様ほど心強い味方はいらっしゃいません。だって、クウィスロフトで、グレアム様に次ぐ実力者ですから。
でも、数日は待てませんからね。やはり今夜、わたくしはドウェインさんと向かいます。
今夜ドウェインさんと向かってグレアム様が奪還できるかどうかはわかりませんが、最低でもグレアム様がいらっしゃるのかどうかは探ってきたいです。そうしないと、クウィスロフトから応援が来ても、情報が不確かなまま強引に突っ込むことはできませんから。
……大丈夫ですよ。わたくし、朝よりは冷静です。ドウェインさんの予想通りなら、グレアム様本人に命の危険が迫っているわけではないと思いますから。だから冷静に、どうするのがいいか、考えながら行動できるはずです。
わたくしの意志が固いとみると、ロックさんはあきらめたようでした。メロディと同じように「危険だと思ったら逃げてください」とおっしゃいます。
……皆様とっても心配性ですね。
わたくしは「大丈夫ですよ」とメロディのときと同じように答えて、窓の外へ視線を向けました。
あと数時間で夜になります。
……待っていてくださいませ、グレアム様。
わたくしが絶対に、助けて見せます‼
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