消えたグレアム 3

 ガイ様お目当てのスイーツのレストランは、ホテルの三階にあります。

 すべてが個室になっていて、購入した時間内であればスイーツもお茶もジュースもどれだけ注文してもいいのです。


 ……とはいえ、わたくしはそんなにたくさん食べられませんので、すべてのメニューを制覇すると豪語しているガイ様やオルグさんのようにはいきませんので、吟味して決めなければなりません。


「奥様、何になさいますか?」

「実は悩んでいます。どれも美味しそうでなかなか決められません」


 わたくしとメロディは二人してメニュー表とにらめっこです。

 ガイ様とオルグさんは、さすがすべて制覇すると宣言しただけあって、メニュー表の上の方からいくつかのスイーツを注文し終わっています。ドリンクは最初だけ全員分の紅茶を頼みました。


「チョコレートムースとフルーツタルト、このプリンケーキというのも気になります」

「奥様、ラズベリーソースのオペラ、イチゴのシフォンショートケーキ、チーズクリームのロールケーキというのも美味しそうですよ」

「……本当です。困りますね。あ、メロディはわたくしを気にせずどんどん食べてくださっていいんですよ」

「いえ、奥様。さすがに食べたいだけ食べると太ってしまうので、三つくらいにしておこうかと」

「三つですか。三つ……、そのくらいなら、わたくしも頑張ればなんとかなるでしょうか」


 先ほどプールで運動しましたし、適度にお腹がすいています。三つくらいなら頑張れば食べられる気がしてきました。多分お昼は食べられないでしょうが、いいのです。朝ごはんが遅かったですし、おそらくガイ様たちもお昼ご飯のことは考えていないはず。今はお昼ごはんより目先のケーキでございます!

 すでにガイ様とオルグさんが運ばれてきたケーキを頬張っています。……美味しそうです。あれはガトーショコラと……ええっと、あ、多分これです。シャルロットケーキ! 上に載っているのは桃でしょうか。うぅ、あれも食べてみたいです。

 わたくしはメロディと視線を合わせました。


「あの、ものは相談ですがメロディ……」

「奇遇ですね奥様、わたしもご相談が……」

「わたくし、ケーキをできるだけたくさん食べてみたくてですね」

「ええそうでしょうとも、もちろんです。そうなると……」

「……半分こ」

「半分こですね奥様」


 わたくし、今、メロディととっても心が通じ合っていますよ!

 そう、半分こすればいいのです。メロディと半分こ。そうすればより多くのケーキの味を堪能できるのでございます!


「そなたたちは何を真剣な顔で馬鹿馬鹿しいことを言っているんだ?」


 ガイ様がお口いっぱいにケーキを詰め込んでもごもごと口を動かしながらあきれ顔を浮かべていらっしゃいます。

 ガイ様。たくさん食べられるガイ様にとっては馬鹿馬鹿しいことかもしれませんが、わたくしたちはとっても真剣なのですよ。メロディと半分こすれば、なんと、六種類ものケーキの味が堪能できると言うことですからね!

 そうと決まれば、たくさんある中のどのケーキにするかを選ばなくてはいけません。

 コードウェルのお城で出されないような珍しいケーキも食べておきたいですね。食べたことのないものはとっても気になります。


「メロディ、このメルヴェイユというのは食べたことがありません。気になります」

「本当ですね。あ、奥様、このチーズタルトはこのあたり原産のチーズを使っているようですよ」

「味、違うんでしょうか」

「これも候補に入れましょう。レモンパイも美味しそうですね」

「ショートケーキは外せない気がします」

「チョコレート系も食べておきたいですね。奥様が最初におっしゃったチョコレートムースのケーキも入れておきましょう」

「では、ラズベリーソースのオペラも入れましょうか」


 よし、これで六つです。選べました。選ぶのに意外と時間がかかってしまいましたが、まだ

まだ退出時間ではございません。

 わたくしたちが話し合っている間に、ガイ様とオルグさんはケーキを五つくらい食べ終わっていました。


 ……オルグさんはともかく、ガイ様は本当にどこに入るのでしょうか。あ、でも、ハイリンヒ山の噴火を止めるため、溶岩を一瞬で食してしまわれましたから、それと比べると大したことはないのかもしれません。


 メロディとわたくしは紅茶のお代わりとケーキを頼んで、半分こしながら一つずつ味わっていきます。


 ……美味しいです! 甘くて、スポンジはふんわりしていますし、チョコレートも濃厚。グレアム様もいらっしゃればよかったのに……。


 グレアム様はわたくしたちがホテルの探索をしている間に、ロックさんとお話があるらしいです。昨日のセイレンという魔物についてお話されると言っていました。諜報隊の方々に影響が出ないように、警備の配置を見直すらしいです。海に近づきすぎないように、そして、万が一セイレンの歌声の影響が出ても、すぐに対処ができるように。

 それが終わったら、部屋でゆっくりしているとおっしゃっていました。


 明日は、嵐が通り過ぎるでしょうか?

 メロディたちとホテル探検も楽しいですけど、やっぱりグレアム様と一緒に遊びたいです。


 グレアム様の顔を思い浮かべて、恋しくなってしまったからでしょうか。さっきまで甘かったチョコレートが、ちょっぴり苦く感じられました。



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