ハイリンヒ山の噴火 3
結局、麻袋はドウェインさんが四つ、ロックさんとオルグさんが三つずつ抱えて戻ってきました。
……申し訳ございません。帰りもわたくしはグレアム様に抱えられておりましたので、わたくしとグレアム様は戦力外だったのです。わたくしはグレアム様が採取した炎のキノコを三つ持っておりましたし、抱えられた状態で袋は持てませんでしたから。
玄関で出迎えたメロディは、大量のキノコに言葉を失っていました。
……ごめんなさいメロディ。でも、こちらに被害が出ないように、ドウェインさんにはよくお願いしておきますから。
「あのキノコ馬鹿はともかく、どうして旦那様までその変なキノコを持っているんですか」
ドウェインさんにさっさとキノコの袋を片付けるように言ってから、メロディは嫌そうな顔をグレアム様に向けました。
「少し調べたいことができた」
「調べたいこと? それを?」
「ああ。しばらく部屋にこもる。夕食の時間まで声をかけるな」
夕食の時間まで、あと二時間というところでしょうか。お邪魔しないように、あとでお茶だけお出ししましょう。
「奥様、旦那様はあのキノコの何を調べるんですか」
「あのキノコには微量の魔力がこもっていたんですよ。もしかしたら噴火と関係があるかもしれないので、グレアム様がお調べになってくださるそうです」
「なるほど……そういうことなら仕方がないですね」
ドウェインさんのせいで、メロディはキノコに対して警戒感が強くなったようです。そのうち、キノコに拒否症状が出るのではないでしょうか。食卓からキノコが消えたら、ドウェインさんのせいですよ。
ロックさんとオルグさんは少し休憩なさると言うので、わたくしはグレアム様にお茶をお届けして、そのあとでダイニングでのんびりすることにいたしました。
わたくしが外出すると、オルグさんが休憩できませんからね。グレアム様も炎のキノコをお調べになっていますし、夕食まで家の中で読書でもしていましょう。
この家の中には小さな書庫がありましたので、物語を一つお借りして、わたくしはダイニングの椅子に座って本を開きました。
それは、火竜様と女の子のお話でした。
子供のころに、ハイリンヒ山に住んでいた火竜様とお友達になった女の子が、大人になって火竜様と結婚するお話です。
……もしかして、火竜の一族の誕生のきっかけになったお話でしょうか。
もしこれが本当のお話ならば、火竜様はずっと昔からハイリンヒ山に住まわれていたのでしょう。
物語を読み進めていたわたくしは、ふと、物語の終盤で手を止めました。
「……山が赤く染まるとき、山が火を吹き、火竜様がそれをお鎮になった…………これってもしかして」
わたくしはガタンと勢いよく立ち上がりました。
これは、グレアム様にお見せしなくてはなりません。わたくしが想像したことが正しいかどうかはわかりませんが、グレアム様のご判断が必要です。
グレアム様は夕食まで声をかけないようにとおっしゃいましたが、夕食まで待てません。
逸る気持ちのままにわたくしは階段を駆け上がって、コンコンと部屋の扉をたたきました。
中からお返事があったので、そっと扉を押し開けますと、わたくしを見たグレアム様が微笑まれました。
「どうした? 寂しくなったのか?」
「ち、ち、違いますよ」
……わ、わたくしは小さな子供ではありませんから、ちょっと離れただけで寂しくなんて……なったりしませんよ。ちょっとだけしか。
おいでと手招かれたので、わたくしは本を抱えて部屋に入ります。
ソファの前のローテーブルには炎のキノコがあって、その一つが二つに切られていました。
「何かわかりましたか?」
「これと言って特には。ドウェインがキノコを食べた後で火を吐いただろう? あれはキノコの魔力の影響だろうということはわかったが、その程度だ。それで、アレクシアはどうした?」
「あ、はい。あの、この本を書庫で見つけたんですけど、ここに気になることが書かれていて……。山が赤く染まるって、まるでさっき見た光景のような気がして」
「うん?」
グレアム様がわたくしが開いたページを覗き込みます。
「山が赤く染まるとき、山が火を吹き、火竜様がそれをお鎮になった……か。なるほどな。確かに、山が赤く染まると言うのが、さっき見た炎のキノコの影響だと考えるとしっくりくる、か。となると山が火を吹きは噴火で、火竜がそれを鎮めたというのは、噴火した溶岩を食べたと言うことでいいのだろうか」
「ドウェインさんが火竜様はハイリンヒ山の溶岩が好物だっておっしゃっていましたもんね」
「ああ」
「ジョエル君にもお見せした方がいいでしょうか? 書庫にあった子供向けの物語のようですので、ジョエル君も読んだことがあるかもしれませんけど……」
「そうだな、一応見せてみるか。キノコを調べるよりもそっちの方が生産的だろう」
グレアム様が立ち上がります。
そして、わたくしとともにベノルト村長のお宅に向かおうとした、その時でした。
「姫! いらっしゃいますか⁉」
玄関からケントさんの焦った声が聞こえてきました。
何事かと二階の手すりから下を見下ろせば、ケントさんがわたくしを見つけて階段を駆け上がってきました。
「大変です! あのキノコが、すごい勢いで増えていきます……!」
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