祭壇の調査と炎のキノコ 6
祭壇はそれほど大きくありませんでしたので、解体作業は三十分ほどで終わりました。
祭壇を解体してわかりましたが、奥にある空洞を、巨大な火の魔石が完全にふさいでしまっていました。
ジョエル君の指示で魔石が運びだされますと、祭壇の奥にはぽっかりと巨大な空洞がありました。光魔術で照らして確認したところ、空洞は円の形をしているようです。そして中には何もありませんでした。火竜様がいらっしゃるのではないかと期待していたジョエル君ががっかりした顔をしています。その横で、ドウェインさんもがっかりしていました。
「キノコが生えていません」
……ドウェインさんのことは放っておきましょう。
グレアム様はグレアム様で、洞窟の端に転がされた火の魔石ばかり見つめています。祭壇奥の空洞にはこれっぽっちも興味を示していらっしゃいませんね。
「何もないなら仕方がない。祭壇を元に戻せ」
ジョエル君が建築家さんたちに、祭壇をもとに戻すように告げました。
「……魔石はどうするんだ?」
グレアム様がジョエル君に訊ねますと、ジョエル君は肩をすくめます。
「その魔石は大きすぎて使い勝手が悪い。その辺に転がしておけばいいだろう」
……この魔石、売ればとんでもない金額になると思うのですけど、それを転がしておけばいいなんて、もしかしなくても火竜の一族って、とんでもないお金持ちだったりしますか?
ジョエル君だけではなく、ケントさんもドウェインさんも興味を示していません。
グレアム様が愕然と目を見開きました。そうですよね。グレアム様にとって、喉から手が出るほど欲しい魔石でしょうから。
「あのぅ、ジョエル君。いらないのなら、わたくしたちがいただいてもいいのでしょうか?」
グレアム様の代わりにわたくしが訊ねますと、ジョエル君はあっさり頷きました。
「ああ。アレクシアなら構わない。持って行け」
「ありがとうございます!」
わたくしが笑顔でグレアム様を振り返りますと、グレアム様も満面の笑顔を浮かべて、わたくしをぎゅーっと抱きしめてくださいました。
「でかした、アレクシア!」
グレアム様が、額や頬にキスの雨を降らしてくださいます。嬉しいですが、ジョエル君の視線が突き刺さるようです。
「グレアム様、あの……ジョエル君が見ています」
小声でお伝えしますと、グレアム様がキスをやめてわたくしを解放してくださいました。
「……アレクシアではなくお前が欲しかったのか」
ジョエル君、そんなあきれた顔をしないでください。わたくしとグレアム様は夫婦なので、いわば一心同体なのです。グレアム様がほしいものはわたくしが欲しいものでもあります。
「まあいい。やると言ったしな。……祭壇を元に戻したら撤収するぞ。特に収穫はなかったからな、また一から火竜様を目覚めさせる方法を調べなおしだ」
グレアム様的にはこれ以上ないほどの収穫がありましたが、ジョエル君は無駄足でしたので、がっかりした顔でそうおっしゃいます。
帰りもわたくしはグレアム様が抱きかかえてくださいましたので、巨大な火の魔石は、グレアム様が魔術で重さを感じないようにしたあとで、オルグさんが抱えて戻ることになりました。重さを感じなくさせる魔術を使わないと、力持ちのオルグさんでも持てないような重さなのですよ。どのくらい重いのかと言いますと、オルグさん曰く「奥様三十人分くらいです」だそうです。とんでもない重さです。
デネーケ村に戻りますと、グレアム様は魔石をわたくしたち夫婦の部屋に運ばせました。
出迎えたメロディは驚きを通り越してあきれ顔です。
「祭壇を調べに行って、どうして旦那様のコレクションが増える結果になるんですか?」
そういえば、メロディには祭壇の奥に魔石があることをお知らせしていませんでしたね。
グレアム様は魔石にくっついて部屋にこもってしまいましたので、わたくしが手身近に説明しますと、メロディは額に手を当ててため息を吐きました。
「奥様は旦那様に甘すぎですよ。あれほど巨大な魔石は見たことがありませんから、あの様子だと旦那様はしばらく部屋から出てきませんよ。……噴火を止める方法を探すという目的すら忘れていそうな気がします」
「そ、そんなことはないと思いますけど……」
「あの魔石馬鹿を甘く見てはいけません。小さいころから、魔術具や魔石が絡むと、途端に周りが見えなくなりますから」
さすが乳姉弟。グレアム様の性格を熟知しています。
しかし、メロディの言うことが本当だとすると、困りましたよ。ジョエル君が予測した噴火まであと一か月と少ししかないのに、頼みの綱のグレアム様が魔石にかまけて離脱してしまわれますと、わたくし一人では打つ手がありません。
「わたくし、グレアム様の様子を見てまいります」
心配になったわたくしは、玄関から急いで二階に駆け上がりました。
夫婦の部屋に入りますと、グレアム様は魔石を部屋の隅に置いて、乾いた布でせっせと表面を磨いていらっしゃいました。
「グレアム様、あの……」
「ああ、アレクシア、こっちにおいで。見てくれ。少し魔力を込めてみたんだ。これだけ大きいと圧巻だと思わないか」
巨大な卵型をした魔石は、グレアム様が魔力を込めたおかげで赤く輝いていました。確かにとっても綺麗ですけど……メロディの予感が的中しそうで、わたくしは不安になってきましたよ。
「あの、グレアム様……、この魔石を、どうなさるおつもりですか?」
「それについては考え中なんだ。これだけ巨大な魔石はもう手に入らないだろうからな。普通の魔術具に使ったのでは面白くない。これを使ってどんなものが作れそうか、ゆっくり考えようと思うんだが、アレクシア、何か思いついたら教えてくれ」
……ああっ。やっぱりグレアム様の頭の中が魔石と魔術具に染まっていました。
グレアム様はご機嫌でわたくしを抱きしめて、頭のてっぺんにキスを落とします。
「これが手に入ったのはアレクシアのおかげだ」
ちゅっちゅと頭に何度も口づけてから、グレアム様はわたくしを抱えてくるくると回りはじめました。今まで見たことがないくらいテンションが高いです。グレアム様が嬉しいとわたくしもとっても嬉しいですけど、今は呑気に喜んでいる状況ではございません。
「グレアム様、あのっ、魔石もいいですが、今は噴火の方を何とかしないと……」
「そうだな、噴火か。だが噴火を止める魔術具はさすがに作れないと思うからな」
「いえ、魔術具ではなくてですね……!」
ダメです。グレアム様の頭の中が冷静でありません。
回るのに飽きたグレアム様はわたくしを抱えたままソファに腰を下ろして、今度は唇に口づけを落とします。
……口づけはダメです! 気持ち良すぎてわたくしも何も考えられなくなってしまいます! ああっ、なのに拒めません! いつの間にかソファに押し倒されていますしどうしたら……!
わたくしがあわあわしながら、どうにかしてグレアム様に冷静さを取り戻させようと考えておりましたら、突如として部屋の扉が開け放たれました。
カァアアアアアン‼
と、同時に高い金属音が鳴り響いて、グレアム様がびっくりして顔を上げます。
部屋の扉には、フライパンとお玉を握り締めたメロディが仁王立ちしていました。
「いい加減にしやがりなさいませ‼ 調子こいてるとその魔石こなごなにしますからね‼」
グレアム様の顔から、すこんと表情が抜け落ちました。
……メロディ、さすがです。
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