祭壇の調査と炎のキノコ 5

 次の日、わたくしとグレアム様はハイリンヒ山の洞窟へ出発しました。

 ロックさんとオルグさんも一緒です。ドウェインさんも強制連行であります。この方の知識は役に立つので、ジョエル君が引きずってでも連れて来いと言ったためです。

 ドウェインさんはキノコを食べるから嫌だと騒ぎましたが、一人で遠くに行かないという条件で道中のキノコ狩りを許可したところ、ころっと笑顔になってついてきました。


 ……だんだんドウェインさんの扱い方がわかってきましたよ。喜んでいいことなのかどうかはわかりませんけどね。


 ジョエル君たちについて行こうと思うとわたくしはどうしても速足になります。足場が悪いところで早歩きをするとわたくしの場合転んでしまうだろうからと、今日もグレアム様に抱きかかえられての移動です。


 ……うぅ、ジョエル君があきれ顔をしていますよ。ちょっと恥ずかしいです。でも、これはべつにいちゃいちゃしているわけではなくて、やむを得ない事情と言いますか……何を言っても言い訳に聞こえてしまうかもしれませんけど。実際、恥ずかしいけれど嬉しかったりもしますし。


 わたくしを抱えての移動はグレアム様が大変なのですけど、グレアム様は「アレクシアは軽いから平気だ」とおっしゃってくださいます。


「アレクシアを娶る場合は、そうして抱きかかえて歩く体力をつけることも考慮しなければならないのか。覚えておこう」


 何を言っているんですかジョエル君。


「そんな日は永遠に来ないから無用の心配だ」


 グレアム様も、十一歳のジョエル君を威圧したらダメですよ。まあ、グレアム様が睨んでもジョエル君は平然としていますけど。

 わたくしは一生グレアム様の妻でいたいですから、ジョエル君は早く別の女の子を探してほしいのですけど。王とか姫とか関係なく、ジョエル君が好きになれる女の子を。


 ジョエル君と他愛ない(?)会話をしている間も、ドウェインさんはキノコを見つけては麻袋に詰めています。ふらふらと遠くに行かないで下さいとお願いしましたが、必要なかったかもしれません。だって、あちこちにドウェインさんのお気に入りの炎のキノコが生えているのです。昨日よりも多いですよ。このキノコは成長が早いのでしょうか。


 すでに麻袋がいっぱいになるほど炎のキノコを採ったドウェインさんはにこにこです。袋に入りきらなくなったら、ポケットにも詰めていきます。ズボンのポケットから赤い傘が飛び出していますよ。髪を束ねていた紐にまでキノコを括り付けています。見るからに異様です。


「ドウェイン、あとからまた採りに来ればいいでしょう。そろそろやめてください。面白いことになっていますよ」


 これが面白いと言えるケントさんは大物かもしれませんね。わたくしはちっとも面白いと思えませんでしたよ。

 普段ならキノコ狩りをやめろと言うと拗ねるドウェインさんですが、炎のキノコをたくさん収穫できてご満悦なので、素直にケントさんの意見に従いました。


 ……ただね、ドウェインさん。歩きながら炎のキノコを食べるのはやめてほしいのですよ。ふーって息を吐き出すたびに口から火が出て、周りの木々に燃え移らないか気が気ではありません。


 ジョエル君も、ふーっと火を吐いて遊んでいるドウェインさんを見て片眉を上げると、ケントさんにひとこと「やめさせろ」とお命じになりました。

 ケントさんが肩をすくめて、ドウェインさんに火を吐くのをやめるように言いましたが、ドウェインさんには聞く気はないようです。

 ケントさんが、息を吐いて小声で「ヒカリゴケ茸」と言いました。

 途端に、ドウェインさんの表情が変わります。


「村に帰るまでキノコを食べないと約束したら、私が持っているヒカリゴケ茸を差し上げます」

「いいでしょう」


 ドウェインさんが言うことを聞きましたよ。


「グレアム様、ヒカリゴケ茸って何ですか?」

「希少なキノコだ。俺も見たことがない。確か五年に一度、限られた場所にしか生えないキノコじゃなかったか? オルグ、知っているか?」

「もちろんですよ。珍味中の珍味、幻のキノコです‼」


 珍味、ということは毒キノコではないのですね。でも、ドウェインさんが食いついたので、よほどお気に召しているキノコなのでしょう。

 そんなものを隠し玉として持っているケントさん、侮れません。

 ドウェインさんがおとなしくなったおかげで、残りの道中は何の問題も発生いたしませんでした。ジョエル君にケントさん、ドウェインさん、そしてグレアム様がいらっしゃるので、魔物なんて一匹も寄ってきません。


 途中で一回休憩を挟み、ハイリンヒ山に到着すると、わたくしたちはジョエル君を先頭に洞窟の中に入りました。

 光魔術で洞窟内を照らしていますので、とっても明るくて快適です。

 祭壇のある場所まで到着すると、グレアム様がわたくしを地面に下してくださいます。

 一緒にやってきた火竜の一族の建築家の方々が、さっそく祭壇の解体作業に入りました。

 わたくしたちはすることがありませんので、洞窟の中で待たせていただきます。

 洞窟の壁には見事な壁画が描かれていますから、待ち時間も退屈なんてしません。


 ……ふふ、グレアム様は祭壇の扉が外されたことで見えた火の魔石に釘付けですよ。きっとグレアム様の頭の中では、あの巨大な魔石を利用して作る魔術具のことでいっぱいなのでしょう。


 わたくしは小さく笑って、あの魔石がグレアム様のものになりますようにとお祈りしました。




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